はじめに
公正取引委員会は13日、新規株式公開の主幹事業務を巡り、みずほ証券に「注意」を出していたことがわかりました。公開価格設定に関して優越的地位の濫用の恐れがあったとのことです。今回は株式公開のIPOと優越的地位の濫用について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、みずほ証券は新規株式公開(IPO)を予定している企業の主幹事業務で、公開価格を過度に低く設定し、独禁法が規定する優越的地位の濫用につながる恐れがあるとして公取委から注意を受けたとされます。公開価格を低く設定すると、上場初日に大幅に高い初値が付き、当該株式を取得していた機関投資家などは大きな利益を得ることとなります。しかし一方で過度に低い公開価格が設定された場合、新規公開した企業は株式発行による資金調達が抑えられ企業の成長を阻害する恐れがあるとのことです。公取委は昨年1月にこのような行為の問題点を指摘した見解を公表しておりました。
新規株式公開(IPO)と公開価格決定
IPOとは、「Inisial Public
Offering」の略で最初の株式公開を意味します。未上場会社が新規に証券取引所に上場して投資家に株式を取得させることです。そしてこのIPOでの公開価格の決定に際し、機関投資家に会社説明会を行い、機関投資家から妥当と考えられる株価に関する意見を聴取し、それらを踏まえて仮条件を設定します。その後不特定多数の投資家による需要申告を受け、最終需要を集計して公開価格を設定します。このような公開価格の設定プロセスをブックビルディング方式と言います。これにより投資家の需要状況とマーケット動向に即した公開価格の設定が可能となると言われております。1997年8月以前は新規公開では入札方式しか認められておらず、公開価格が高くなりがちで、公開後の円滑な流通に支障をきたすと指摘されておりました。そこで同年9月からはこのようなブックビルディング方式が採用されることとなりました。
優越的地位の濫用
独禁法2条9項5号によりますと、「自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して、正常な商慣習に照らして不当に」(1)継続して取引に係るもの以外の商品・役務を購入させること、(2)継続して金銭・役務その他の経済上の利益を提供させること、(3)受領拒否、返品、支払い遅延、減額その他相手方に不利益となるような取引条件を設定し、変更し、または実施することのいずれかで優越的地位の濫用に該当することとなります。これに違反した場合には排除措置命令(20条1項)、や課徴金納付命令が出される場合があります(20条の6)。課徴金は違反行為期間における売上額の1%となります。また排除措置命令に従わない場合は罰則として2年以下の懲役または300万円以下の罰金が規定されており、さらに法人に対しても両罰規定が置かれております(90条3号、95条1項4号)。
優越的地位とは
公取委のガイドライン「優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」によりますと、取引の一方当事者が他方当事者に対し、取引上の地位が優越しているというためには、市場支配的な地位またはそれに準ずる絶対的に優越した地位がある必要はなく、取引の相手方との関係で相対的に優越した地位であれば足りるとされます。つまり相手にとって取引の継続が困難になることで事業経営上大きな支障を来すため、著しく不利益な要請であっても受け入れざるを得ないような場合ということです。この判断にあたっては、取引依存度、市場における地位、取引先変更の可能性、その他取引することの必要性を示す具体的な事実などを総合的に考慮するとのことです。
コメント
本件でみずほ証券は新規上場を希望する会社による、セカンドオピニオンに基づき十分に検討された発行価格の算出方法や水準等についての説明を十分検討せず、また機関投資家の評価よりも低い想定発行価格を会社が受け入れ可能かどうかを確認し、可能との回答をもって、想定発行価格が妥当との意見を得たとして会社の主張する価格よりも下回る価格を公開価格と設定したとされます。交渉力の強い主幹事証券会社により公開価格が一方的に低く設定されることにつながり、公正かつ自由な競争に影響を与えるおそれがあるとし、公取委による注意がなされました。以上のように優越的地位は相手方との相対的な関係で決まり、会社の規模や市場シェアなどとは関係なく該当する場合があります。また条文に列挙されていないものでも一方的に不利益な条件などは該当する可能性があります。取引相手から不本意な条件が提示され、飲まざるを得ないような場合には公取委や専門家への相談も検討していくことが重要と言えるでしょう。