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ITbookホールディングスの取締役4名、株主より損害賠償請求訴訟

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はじめに

ITbookホールディングス株式会社(東証グロース上場中)は、主に官公庁や独立行政法人・地方公共団体などの公共機関を対象にICTコンサルティング(情報通信技術に係るコンサルティング)を提供する会社です。そのITbookホールディングスは、5月2日、同社の取締役4名が同社の株主2名より損害賠償を請求する株主代表訴訟を提起された旨、発表しました。
 

訴訟までの経緯

ITbookホールディングスは、2020年3月、RIZAPグループ傘下で女性向けアパレルブランドを展開する株式会社三鈴を子会社化しました。しかし、新型コロナウイルス感染拡大の影響で長期間の店舗休業や時短営業を余儀なくされたことなどが原因で大幅赤字に陥ります。 赤字分を補填するためにITbookホールディングスは、3億円近い貸出金を拠出した上、毎月およそ4000万円の赤字資金の貸出を行っていたといいます。 やがて取引先の銀行から、三鈴の株式を保有している限りITbookホールディングスへの新規融資は困難との声が上がり、2021年8 月に三鈴をアパテックジャパン株式会社に売却しました。 その後、ITbookホールディングスは、投資有価証券としてアパテックジャパンの株式を保有していましたが、2022年5月16日、アパテックジャパンの時価下落を受け、投資有価証券評価損193百万円を特別損失として計上した旨を発表しました。 この2億円近い損失は2022年3月期決算に反映され、それを受けて、今回、株主らがITbookホールディングスの取締役に対し、善管注意義務違反を理由に東京地方裁判所に提訴したとみられています。
 

取締役の善管注意義務違反とは?

「善管注意義務」とは、民法第644条に規定されている義務で、業務を受託した者が、その事務等の管理を行うに際し、当該職業又は地位にある者として通常要求される程度の注意義務をいいます。 株式会社の取締役が負う善管注意義務は、会社との委任関係に基づき発生します(会社法第330条)。会社法上、株式会社の目的が「株主利益の最大化」にあることを踏まえると、取締役が負う善管注意義務は、具体的には、「株主利益の追求のため、必要な注意を払って委任事務を処理する義務」と言い換えることができます。 取締役の善管注意義務違反の類型としては、以下の3つがあります。 (1)取締役自身の法令違反 (2)他の取締役や監督すべき従業員の違法行為の見逃し (3)経営判断の誤りにより会社に損害を与える その中で、特に違反の有無の線引きが難しいのが、(3)の経営判断に関するものです。 取締役といえど、会社経営の先行きを未来予知できるわけではないため、結果が出た後に、安易に当時の経営判断を糾弾してしまうと、適切なリスクテイクができなくなってしまいます。 そのため、判例上、いわゆる「経営判断の原則」が事実上認められており、経営判断に関し取締役の善管注意義務違反が認められるケースを限定しています。 具体的には、 ・経営判断を行う前提となる事実の認識に関し、情報収集・調査・検討の過程において不合理がなかったか【第一原則】 ・前提となる事実と取締役に要求される能力水準に照らし、著しい不合理な判断がなかったか【第二原則】 などを元に判断されることになります。
 

コメント

今回、ITbookホールディングスは、「本件訴訟が取締役個人に対して損害賠償を求めるもので、会社自体の業績に影響を及ぼすものではない」旨発表しています。しかし、訴訟に敗訴した場合、取締役の金銭的・精神的・時間的負担は小さくありませんし、それが会社での業務に影響する可能性があります。また、自社の取締役が敗訴することで従業員のモチベーションにも多少なりとも影響があると考えられます。 判例上、上述した【第二原則】に関しては、取締役の裁量が広く認められる傾向にあります。そのため、善管注意義務違反を回避するためには、【第一原則】をクリアすべく、経営上の判断に先立つ情報収集・調査・検討を適切に行い、その証拠を残していく必要があります。法務として経営層にその必要性を適宜周知して行くことも重要になります。
 

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