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吉野家、従業員への人事評価改ざんやパワハラを認め和解

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はじめに

甘く煮詰めた牛肉と玉ねぎを熱々ご飯の上に盛り付ける、牛丼。ランチだけでなく、夜食にもなり、ビジネスパーソンにとっても強い味方となっています。その牛丼チェーン大手の吉野家でパワーハラスメントがあり、株式会社吉野家が謝罪しました。現場で一体何があったのでしょうか。
 

和解までの経緯

就業先を問わず個人で加入できる企業外の労働組合「東京管理職ユニオン」は5月24日、吉野家で発生したパワーハラスメントに関し、吉野家側が被害者に謝罪し和解したと発表しました。 報道などによりますと、吉野家本社で2012年より正社員として働いていた50代の男性は、2021年10月、職場のチームリーダーから暴言を受けたほか、所属長に人事評価を改ざんされるなどの不当な扱いを受けたということです。具体的には、 ・業績評価の自己評価欄を被害男性が「B」と記入したところ、上司が「C」に修正。 ・本人アピール欄の自由記述を上司が半分ほど削除。会議での消極性を指摘する文言を書き加える。 などの改ざんがあったといいます。男性はその後、精神疾患の診断を受け、2021年11月から休職していました。 吉野家と東京管理職ユニオン、そして被害男性は和解にあたり、和解協定書を作成。その一部が東京管理職ユニオンにより公開されています。一部公開された和解協定書の中では、 (1)語気の強い発言や評価シートの修正の事実を認め謝罪すること (2)ハラスメントやジェンダー・人権侵害に関するコンプライアンス教育の継続実施の誓約
  -ハラスメントに関する行動原則をあらかじめ定め、従業員・取引先に共有するよう努めること -ハラスメントに対し毅然とした対応をとることを示すこと -ハラスメントや人権侵害、差別の禁止につき就業規則や社内規程等に明記すること -ハラスメントの実態調査やセミナー等を通じた周知啓発の徹底 -ハラスメント対策等を踏まえた人事・福利厚生制度の改定と管理者研修の実施 -ハラスメント対策等を踏まえた採用活動における配慮や具体的対応 -相談申し出があった場合の適切な対応
 
などが記されていました。また、解決金を支払う旨も合意されたといいます。   なお、和解は成立したものの、被害男性は職場復帰を断念し、5月末で退社を決めたということです。
 

人事評価を利用してのパワーハラスメント

今回の事案では、上司による人事評価の改ざんがされたことが明らかになっています。明確な不正行為である“改ざん”は極端な例としても、パワーハラスメントの一環で部下に不当に低い評価をつけるケースは珍しくないといいます。 このような、人事評価を利用してのパワーハラスメントには、どのような法的リスクがあるのでしょうか。 ■上司 人事評価は、人事権の行使の一環といえますが、労働契約法上、「労働契約に基づく権利の行使に当たっては、それを濫用することがあってはならない。」と定められています(労働契約法 第3条5項)。そのため、実態と乖離した不当に低い評価を下した場合、人事評価の濫用として違法となりえます。 違法の程度によっては、違法な人事評価の是正や損害賠償を請求されるリスクがあります。 ■会社 一方、従業員が人事評価を利用してのパワーハラスメントを行っていた場合、会社側も労働契約法第5条で定める職場環境の安全配慮義務違反に問われるおそれがあります。そのため、被害者からの改善要請に真摯に対応せず、被害者が精神疾患等を患ってしまったような場合には、損害賠償を請求される可能性もあります。 このように、好き嫌いに基づく、主観的・一方的な人事評価を下した場合、一定の法的リスクがあります。何より、納得度の低い人事評価は、従業員のモチベーション・ロイヤリティを大きく左右します。 透明性、公正性、倫理に基づいた人事評価プロセスを確立することが重要だということがわかります。
 

人事評価トラブルでの裁判例(参考)

過去にも人事評価をめぐるトラブルで裁判に発展した事例がありますのでご参考までにご紹介します。

●マナック事件 医薬品などの製造・販売をする会社に、業務課主任として勤務するAさん。取締役の退任について、勤務中に経営陣を批判する発言などを同僚の前で大声でしたことで直属の上司から叱責されたほか、会長からも注意を受けたものの、Aさんは謝罪を拒否していました。 すると勤務成績を理由に、監督職である職能資格四級から一般職である三級に降格されるととも、この一件の翌年以降、4年にわたって年一回の基本給支給額の決定をする昇級査定が5段階の中で最も低くされ、また批判した直後の評定期間内に含まれている冬期の賞与は、賞与査定されず、代替措置として一ヶ月分の基本給相当額を支給されたのみ。それ以降の夏期・冬期賞与についても査定が低くされたということです。 Aさんはこの降格処分の無効を求め、また昇進差別による基本給の差額と賞与の減額分の支払いを求めて訴訟を起こしました。この控訴審では、職能資格の決定、昇進査定、賞与額の決定などにおいて会社の裁量権が認められ、降格処分については違法性が否定されました。しかし、賞与と昇進査定については、評価期間に含まれない賞与や昇進査定について、人事評価や賞与規定に違反しており、会社の裁量権を逸脱しているとされ、Aさんの控訴が一部認められ、一審の判断が変更されることとなりました。

 

コメント

被害男性は、本当は定年まで勤め上げたい意向を持っていたそうで、金銭的な解決に対して、一部不本意な思いもあったそうです。その一方で、同様の思いをしている被害者を後押しするうえで、一石を投じられたことへの手ごたえも一部あるといいます。 愛社精神の強い従業員のキャリアと引き換えに投じられた一石。企業側は、その重みを噛みしめる必要があります。 吉野家に限らず、指導・評価の大義名分のもと、場合によってはハラスメントの認識すらないままに、同様の行為が社内で行われている可能性があります。 改めて、ハラスメントへの理解を深める教育・研修を徹底すると共に、そもそもの心構えとして、会社における上司と部下の上下関係は、単なる役割に過ぎず、上司の方が部下よりも人間として偉いわけではないこと。上下関係以前に、相互に人権を持った対等な人間同士の関係であることを再認識してもらうことが重要と考えます。
 

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