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逗子の斜面崩落事故、マンション管理会社元社員が書類送検

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はじめに

2020年2月5日、マンションの敷地斜面の崩落により土砂が流れ落ち、その真下を歩いていた当時18歳だった女子高校生が巻き込まれて死亡する痛ましい事故が発生しました。遺族は、同年6月に、業務上過失致死等の容疑でマンションの管理会社や区分所有者らを刑事告訴。それから約3年後の6月23日、神奈川県警は「安全管理を怠った」として、当時、マンション管理会社の担当者だった男を業務上過失致死の疑いで書類送検しました。
 

教師になる夢、土砂で崩される

報道などによりますと、逮捕されたのは事故が起きたマンションの管理会社に勤務する担当者でした。事件の前日、マンションの管理人が斜面に約4メートルの亀裂があることを見つけ、その旨を元社員の男に連絡したとされています。 しかし、元社員の男は、連絡を受け、敷地内に危険な状況があったことを把握していたにも関わらず、必要な安全措置を取らず、事故を引き起こした疑いが持たれています。 事故は、2020年2月5日午前8時ごろに発生しました。マンション敷地の高さ約16メートルの斜面から約66トンの土砂が突然崩れ落ち、通学途中で真下の道路を歩いていた18歳の女子高校生が巻き込まれて死亡しています。 事故当日は、女子高校生は友人との外出の為に、午前7時40分ごろ家を出発。その15分後、女子高生の少しあとに車で外出した家族と路上で手を振り合い、そのたった3分後に、土砂の下敷きになり、死亡したということです。 女子高校生は教師になる夢を胸に大学進学を目指し、事件直前に進路が決まったばかりだったといいます。
 

事故をめぐる訴訟

被害者の遺族は、事故をめぐり、神奈川県、そして、マンションの管理組合、管理会社などを相手取り提訴しています。
 

マンションの区分所有者と管理組合、管理業務の委託を受けた管理会社に対する訴訟

事故で崩落した斜面は、1960年ごろに市道建設のため地山が切り土され、斜面の上は68年ごろに造成されています。その後、2003年のマンション建設に先立ち地質調査が行われました。この地質調査で「風化により強度が低下している」と強度が問題視され、落石防護などが望ましいと指摘されていたものの、対策は取られなかったということです。 さらに、前述の通り、事件発生前日に、マンション管理人が斜面上部に亀裂を発見し、管理会社に報告していますが、安全対策などの措置は取られませんでした。 こうしたことから遺族側は、大雨や地震などがないのに崩落するほど危険な斜面であったと指摘。前日に亀裂も発見されていて、危険を認識し、対策を取ることができたとして、2021年2月5日、約1億1800万円の損害賠償などを求めて横浜地方裁判所に訴訟提起しています。
 

神奈川県に対する訴訟

遺族はさらに、今年2月3日、神奈川県に対し、あわせて150万円の損害賠償を求め、同じく横浜地方裁判所に提訴しています。 遺族側は、 ・県の委託業者が、土砂災害特別警戒区域の指定を判断する目的で事故の2週間前に斜面の周辺を調査していたにも関わらず、ずさんな調査により危険を事前に察知できなかったこと ・その結果、崩落を防ぐための工事が行われなかったこと ・マンションの管理会社から県に対しても斜面の異常を知らせる報告が行われたにも関わらず、県の担当者が現場確認を行うことなく放置したこと などが事故に繋がったと主張しています。
 

民法第717条

崖崩れでは民法第717条の工作物責任が適用されるとみられています。

(土地の工作物等の占有者及び所有者の責任)第717条 土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。 2 前項の規定は、竹木の栽植又は支持に瑕疵がある場合について準用する。 3 前二項の場合において、損害の原因について他にその責任を負う者があるときは、占有者又は所有者は、その者に対して求償権を行使することができる。

土地の工作物の設置または保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は損害の賠償する責任を負うとされています。第三者に損害を生じさせる可能性のある瑕疵ある工作物を支配している者は、その危険が実現した場合にはその責任も負うべきとの「危険責任の法理」がその趣旨と言われています。 損害発生時に責任を負うのは第一次的には工作物の占有者、占有者が損害発生防止に必要な注意を払っていたことを立証できたときには、第二次的に所有者とされています。所有者が責任を負う場合は無過失責任とされ、注意義務を果たしていたと立証しても責任は免れません。
 

裁判例

過去にも今回の事故と類似のケースで争われています。 大雨で地盤が緩み、石垣が崩壊。隣接家屋が全壊した事故で、石垣の保存について通常有すべき安全性を欠いていたとして、石垣所有者の「工作物の保存の瑕疵」が認められています。 裁判所は、「石垣を全面的補修を行っていれば崩壊を防ぐことができた可能性があったが、実際には望ましい措置は何ら行われなかった」といったことに加え、前日までに降った降雨量は数十年に一度はありえる程度の降雨量であり、不可抗力にはあたらないなどと指摘しました。そのうえで、石垣の保存について通常有すべき安全性を欠いていたと認定、瑕疵によって事故が引き起こされたものとして、損害賠償を命じています。 (広島地裁 平成10年2月19日判決)
 

コメント

今回の事故をめぐっては、遺族に刑事告訴されたマンション区分所有者らが、マンションの設計者などを提訴しているといいます。様々な要因が重なって発生した痛ましい事故。神奈川県に、管理会社、区分所有者、管理組合、マンションの売り主、販売代理店、建築設計者。各当事者がどれだけの責任を負うことになるのか、現状見通しが立っていない状況です。 こうした事故によるリスクを負うのは、不動産業界や建設業界に限った話ではありません。何かしらの工作物を所有・占有・管理している企業においては、今一度、その安全管理体制を確認したいところです。
 

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