はじめに
著作権に関する契約を結ばずに営業していたとしてJASRACは5日、宮城県のカラオケ店3店舗に機器使用禁止などの仮処分が執行されたと発表しました。損害賠償請求なども検討しているとのことです。今回は民事保全法の仮処分について見直していきます。
事案の概要
報道などによりますと、仮処分が執行されたのは富谷市のメローガーデンが経営する栗原市、大崎市、加美町にあるカラオケボックス3店舗とされます。3店舗は2019年から今年5月にかけてJASRACと著作権に関する契約を締結せず、使用料の精算にも応じないまま営業を続けていたとのことです。仙台地裁は5日、JASRACの申し立てにより3店舗に対しマイクやスピーカー、モニターなどの機器を使用禁止とする仮処分を執行しました。JASRACの申し立てでカラオケ店に仮処分がなされるのは宮城県では初とされます。これまでの損害額は約754万円と見積もられており、支払われない場合は訴訟の提起も検討しているとのことです。
差止請求と仮処分
著作権法112条1項によりますと、著作権者等は著作権を侵害する者または侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止または予防を請求することができるとしております。著作権の侵害が生じた場合、著作権者等はこの差止請求と共に損害賠償を求める訴訟を提起することが多いと言えますが、同時に差止の仮処分を申し立てることが一般的と言えます。仮処分は本案判決が出るまでの仮の措置ではありますが、その内容は本案判決による執行とほぼ同一の内容と言えます。そのため簡易・迅速な手続きで実現できる仮処分でほぼ原告側の要望が実現できる場合もあり、非常に重要で強力な紛争解決手段にもなっております。以下具体的に仮処分について見ていきます。
仮処分とその種類
民事保全法の仮処分は大きく2種類に分けられ、(1)係争物に関する仮処分、(2)仮の地位を定める仮処分となっております。係争物に関する仮処分は、例えば土地など不動産に関する紛争で、「占有移転禁止の仮処分」や「処分禁止の仮処分」など訴訟が終わるまで係争物の現状を維持・固定することを目的としております。これに対し仮の地位を定める仮処分は財産上または身分上を問わずあらゆる権利関係の紛争について、仮に権利を実現することを目的としております。違法な行為の差止や出版の差止、接近禁止の仮処分、発信者情報開示を命ずる仮処分など様々な仮処分がありえます。なお仮処分とは別に金銭債権の保全を目的とする仮差押というものも存在します。これは強制執行までに債務者が財産を処分してしまうことを防止することを目的としております。
仮処分の手続き
まず仮処分の要件は(1)被保全権利の存在と(2)保全の必要性とされております。保全されるべき権利の存在と係争物の現状変更により強制執行が不可能となるおそれ、または争いがある権利関係について著しい損害や急迫の危険を避けるために仮処分が必要であることを疎明することとなります(13条1項、2項)。そしてこの申立は本案訴訟の管轄裁判所、または係争物の所在地を管轄する裁判所に行います(12条1項)。その後裁判官との面接や審尋手続き、担保決定と立担保証明などを経て仮処分命令が出されます。仮処分命令が出されますと保全命令正本が当事者に送達され執行となります。なお仮処分は本案判決が出るまでの仮の措置であることから、あくまでも本案の提起を前提としております。そのため債務者側の申し立てにより一定期間内に提訴すべきことを裁判所から命じられたにもかかわらず提訴しなかった場合は仮処分が取り消されることがあります(37条~40条)。
コメント
本件で宮城県内のカラオケボックス3店舗のマイクやスピーカー、モニターなどに仮処分が執行され、ビニールシートなどに包まれて仮処分が執行されている旨が記載された公示書が貼り付けられております。この公示書やその他の標識を損壊した場合は罰則として1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科されることがあり(66条)、仮処分が執行されている間は使用することが不可能となります。今後訴訟に発展した場合は訴訟が終了するまで営業は不可能となります。以上のように仮処分は訴訟に先立って簡易・迅速に原告側の請求を事実上、実現することができる強力な法的手段となっております。相手方が交渉に応じない場合などには非常に有力な手段となります。反面、あくまで本案訴訟が前提となることから訴訟提起せずにいた場合は取り消されることもあります。また仮処分を受けた側は被保全権利や仮処分の必要性が無いと考える場合は保全異議を申し立てることも可能です。紛争に備えてこれらの手続きを予め確認して準備しておくことが重要と言えるでしょう。