はじめに
鳥取ガス産業で株主総会が開かれていないのに役員選任決議がなされていたとして、株主の男性(64)が同社を相手取り決議不存在確認を求め鳥取地裁に提訴していたことがわかりました。第1回口頭弁論は9月4日とのことです。今回は株主総会決議不存在確認の訴えについて見ていきます。
事案の概要
毎日新聞の報道によりますと、鳥取市で都市ガス供給事業を営む「鳥取ガス」の関連会社である「鳥取ガス産業」の株主の男性が5月19日付の株主総会招集通知を受け取り、記載されている開催日の5月29日に同社に訪れたところ、会議室には会社側の人間や株主もおらず顔見知りの幹部社員から「社長は不在」「何も準備していない」などと説明を受け、総会は開かれずにそのまま帰宅したとされます。しかしその後、役員選任の通知が届いたことから法務局で確認したところ、5月29日の株主総会で役員選任があった旨の登記がなされていたとのことです。株主の男性は会社法の手続きを無視するなどコンプライアンス軽視が甚だしいとして提訴に踏み切りました。
株主総会決議不存在確認の訴えとは
株主総会が開催されていない、または開催されたものの重大な手続き違反があり開催されたとは言えないような場合であるにも関わらず株主総会決議に基づく役員選任などの登記がなされているといった際になされるのが株主総会決議不存在確認の訴えです(会社法830条1項)。小規模な同族会社などでは会社役員が知らない間に解任され、別の人物が役員として登記されていたといった事例はしばしば見られます。そういった際に利用される訴訟と言えます。提訴期間は無く、原告も利害関係があれば特に制限はありません。また株主総会決議不存在は訴訟によらずとも、訴外で主張することも可能とされます。判決には対世効および遡及効があるとされます(834条、838条、839条)。
不存在事由と裁判例
決議不存在となる事由については上記のとおり物理的に株主総会が開催されなかった場合と、手続きの瑕疵が大きい場合とされております。どのような場合に手続き上の瑕疵が大きいと言えるかは程度の問題となりますが、株主数9名で総株式数5000株の会社で、6名の株主(持ち株数2100株)に招集通知がなされず、代表取締役が実子である2名の株主に口頭で招集を伝えただけという事例で最高裁は株主総会不存在に当たる著しい手続き違反としました(最判昭和33年10月3日)。また不存在とされれ株主総会で選任された取締役で構成される取締役会で選任された代表取締役も正当に選任された者とは言えず、このような代表取締役が招集した株主総会も不存在とされております(最判平成2年4月17日)。それら以外でも代表取締役ではない取締役が招集した株主総会や代理人の議決権行使を制限する場合で制限された株式数が多数に上る場合なども不存在事由と言われております。
決議取消・無効の訴え
株主総会決議を争う訴訟としては他に決議取消しの訴えと決議無効確認の訴えが存在します(830条2項、831条)。決議取消しの訴えは、招集手続・決議方法の法令定款違反または著しく不公正な場合、決議内容の定款違反、特別利害関係人が議決権を行使したことにより著しく不公正な決議となった場合に提起できます。また決議の日から3ヶ月以内と提訴期間が制限されており、原告も株主や取締役などの役員、清算人などに限定されます。これに対し決議無効確認の訴えは決議内容に法令違反がある場合となります。こちらは不存在確認の訴えと同様、提訴期間に制限はなく、また原告も利害関係人であれば制限はありません。そして訴外での主張も可能となっております。
コメント
本件で鳥取ガス産業から株主総会招集通知は送付されているものの、当日出席しても他の株主も会社役員もおらず、総会は行われていなかったとされます。これが事実であった場合、典型的な株主総会決議不存在事由に該当するものと言えます。不存在が確認された場合、役員選任は最初からなかったこととなります。役員が株式のほとんどを保有する同族会社や中小企業では株主総会が適切に開催されていないことが多いと言われております。その場合、登記所に提出する議事録だけ作成して登記申請が行われているとされます。しかし本件のように決議不存在確認の訴えなどが提起された場合、会社側が敗訴する可能性が非常に高いと言えます。また上記のように株主総会の瑕疵がどのようなものであるかによって提起すべき訴訟も変わってきます。招集手続きや決議内容に法令・定款違反が無いかを慎重に確認しつつ準備していくことが重要と言えるでしょう。