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東京地裁がAIを発明者と認めず、特許要件について

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はじめに

 人工知能(AI)が発明した新技術が特許として認められるかが争われていた訴訟で16日、東京地裁は発明者は人間に限られるとして請求を棄却していたことがわかりました。国民的議論が必要とのことです。今回は特許の要件について見直していきます。
 

事案の概要

 報道などによりますと、数年前、米国籍の出願者が発明者を「ダバス、本発明を自律的に発明した人工知能」と記載して特定装置に関する特許を出願していたとされます。しかし特許庁は、発明者として記載できるのは人に限られるとして修正を命じたところ、出願者が応じなかったため出願を却下していたとのことです。その後提訴され、東京地裁では人工知能が発明した新技術が特許として認められるのかが争点となっておりました。なお同様の問題は海外でも生じており、英最高裁は昨年、AIを発明者とする特許は認めないとの判決を出しております。
 

特許とは

 特許とは、画期的な発明をした発明者に対し、その内容を公開する代わりに一定期間、その発明を独占的に使用することができる権利を国が与える制度です。制作した時点で自動的に権利が発生する著作権とは異なり、特許は特許庁に出願し、審査を経て、登録されることによって発生します(特許法66条1項)。特許権は出願の日から20年間存続し、延長登録の出願によってこの期間を延長することも可能です(67条1項、2項)。特許権が侵害された場合には、侵害行為の停止や侵害の予防などを求める差止請求(100条)、損害賠償請求(102条、103条)を行うことができます。この損害賠償請求では損害額の算定に関する規定が置かれ、通常の不法行為損害賠償請求よりも立証の負担が軽減されております。また特許権侵害行為については別途刑事責任として、10年以下の懲役、または1000万円以下の罰金が規定されており、法人への両罰規定も用意されております(196条、201条)。
 

特許要件

 特許法29条1項によりますと、「産業上利用することができる発明をした者は、次に掲げる発明を除き、その発明について特許を受けることができる」としております。そして1号~3号で「公然知られた発明」「公然実施された発明」「頒布された刊行物に記載された発明」は除外されております。また2条1項では発明の定義として「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう」とされます。特許庁のガイドラインでは、①自然法則以外の法則(経済法則等)、②人為的な取決め(ゲームのルールそれ自体等)、③数学上の公式、④人間の精神活動、⑤上記のみを利用しているもの(ビジネス方法等)は該当しないとされます。「産業上利用」できる場合については、①人間を手術・治療または診断する方法、②業として利用できない発明、③実際上明らかに実施できない発明は除外されるとしております。そして既知のものではない新たな発明でなくてはならず(新規制)、容易に発明できないもの(進歩性)である必要があります。また人の遺伝子操作等、公序良俗に反するものも不可とされます(32条)。
 

発明者の表示について

 特許法36条1項、184条の5第1項では、出願人の「氏名又は名称」を記載しなければならない旨規定され、また発明者の「氏名」を記載するよう規定しております。特許庁のHPでは、「名称」とは自然人以外の法人等の名称を指すものとしております。また特許法では、産業上利用することができる発明をした者がその発明について特許を受けることができる(29条1項柱書)、特許を受ける権利は移転することができる(33条1項)、特許出願前における特許を受ける権利の承継は、承継人が特許出願しなければ第三者に対抗することができない(34条)と規定しており、これらの規定との整合性から、発明者の表示は自然人に限られるとしております。
 

コメント

 本件ではどのような内容の発明が特許出願されたのかの詳細は不明ですが、発明者として人工知能が記載されていたとのことです。特許庁は上でも触れたように発明者として記載できるのは自然人に限られるとしており、修正を求めたが応じなかったとされております。東京地裁は、発明は人間の想像的活動により生み出されるものと定義されるとし、特許庁の判断を適法としました。その上で、現行法の制定時にAIの発達が想定されていなかったとして国民的議論で新たな制度設計をすることが相当としました。近年AIが急速に発達し、日本国内のみならず国際社会でもあらゆる場面でAIの活用が議論されております。しかし日本の知財法制はそのような新しい技術に対応しきれておらず、今後の法改正等が待たれております。現行制度やその問題点、当局の動きなどを注視して対応に備えていくことが重要と言えるでしょう。
 

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