はじめに
先日連結決算を発表した「あいホールディングス」では純利益が前期比90%増の156億円であったことがわかりました。持ち分法適用により負ののれん相当額を投資利益としたことが主な要因とのことです。今回は持分法適用会社と株式交換について見ていきます。
事案の概要
日経新聞の報道によりますと、「あいホールディングス(HD)」では2024年6月期の連結決算で、売上高が7%増の498億円、営業利益は4%増の98億円であったとされます。主力の監視カメラでは企業のデジタルトランスフォーメーション関連の需要など防犯向け以外の販売が伸びたとされ、セキュリティ機器事業での営業利益は2%増の58億円であったとのことです。同HDでは前期に「岩崎通信機」を持分法適用会社とし、負ののれん相当額87億円を投資利益として営業外収益に計上して大幅な増益となったとされます。なお同HDは9月1日に株式交換によって岩崎通信機を完全子会社とし経営統合する予定とのことです。
持分法適用会社とは
持分法とは、企業が連結決算を行う際、連結子会社以外の会社のうち、グループ全体の業績に影響を与える会社の業績を連結決算に反映させる会計方法を言うとされます。ここに言う連結財務諸表とは、連結貸借対照表、連結損益計算書、連結余剰金計算書とされ、連結の範囲は子会社、企業グループに影響を与える関連会社、非連結子会社となります。そして持分法適用会社とはこれらのうち関連会社と非連結子会社を言います。持分法適用のメリットは、投資有価証券と持分法による投資損益について持分法適用会社の損益を親会社の連結財務諸表に取り込むことができる点とされます。持分法適用会社に純利益が出ている場合、当該会社の持株比率に応じて親会社の営業外収益として連結財務諸表に反映できるということです。
持分法の適用範囲
上でも触れたように持分法が適用される会社は関連会社と非連結子会社となります。関連会社とは、親会社が20%以上の議決権を保有している場合、または議決権比率が15%~20%未満で親会社の社員等が役員等に就任していたり、親会社が重要な融資を行っているなどの一定の要件を満たす場合とされます。非連結子会社とは、親会社から見て重要性が低い、または支配が一時的な場合など、連結決算の対象から除外された子会社とされます。そして議決権保有比率が20%~50%未満の非連結子会社が持分法適用会社となるとされております。これら関連会社と非連結子会社が持分法適用会社ということです。なお連結子会社は議決権保有比率が50%以上であるなど影響の強い会社を言います。
株式交換とは
ここで簡単に株式交換について触れておきます。株式交換とは、対象となる会社の発行済株式すべてを親会社となる会社に取得させ、完全親子会社とする制度を言います。完全子会社となった会社の株主には代わりに親会社の株式が交付されます。これも一種のM&Aのスキームの一つですが、吸収合併などと異なり買収資金が不要で株主の3分の2以上の賛成が得られれば別途キャッシュアウトの手続きを要せず少数株主を強制的に排除できるというメリットがあります。ただし一方で親会社の株主が変動したり、株価が下落するといったデメリットも指摘されております。株式交換の手続きとしては、株式交換契約の締結(会社法767条、768条)、事前開示(782条、794条)、株主総会での特別決議(309条2項12号、783条)、反対株主の買取請求(785条、797条)、株券提供手続(219条1項7号)、効力発生と登記(915条1項)、事後開示(791条、801条)となっております。なお親子会社関係を創設する株式交付制度も用意されております。
コメント
本件であいホールディングスは岩崎通信機の株式32.8%を保有していたとされます。これにより同社を持分法適用会社として連結決算を行い、営業外収益で大幅な増益となったとのことです。またあいホールディングスは10月1日を効力発生日として岩崎通信機を株式交換により完全子会社化する予定とされます。その際、岩崎通信機株式1株に対して、アイホールディングスの普通株式0.6株を割り当てるとのことです。以上のように一定の要件のもと子会社を持分法適用会社として連結決算することで投資有価証券と投資損益を親会社の連結財務諸表に取り込めます。これにより会計処理の負担も軽減されるとされます。M&Aや組織再編の際には事業効率やシナジーだけでなくこのような会計処理にも留意して検討していくことが重要と言えるでしょう。