はじめに
スーパーで販売されていたツナの缶詰に虫が混入していた問題で、食品加工大手の「はごろもフーズ株式会社」は、製造した下請け会社を相手取り裁判を起こしていました。
報道などによりますと、東京高等裁判所が提案した和解案に双方が合意し、9月11日に和解が成立したということです。
下請け会社側は、一審判決で1億円以上の賠償金の支払いを命じられましたが、「健康被害がなく、偶発的に発生した異物混入に対して下請け企業がどこまで責任を負うべきかを問いたい」として控訴していました。
一審では、ツナ缶の製造を請け負った下請け会社側が敗訴
はごろもフーズが行った報道発表によると、2016年10月に消費者から「ツナの缶詰に虫が混入している」との問い合わせがあり、本件異物混入が発覚したといいます。
はごろもフーズが調査したところ、製造工程で混入した可能性が高いと判明。はごろもフーズ側は、クレームを受け付けるための緊急対応コールセンターを設置するなどの対応に追われました。
その後、他の消費者からの問い合わせがなかったことなどから、異物混入の連続性はないと判断。はごろもフーズとして、缶詰の自主回収は実施しない方針を明らかにしています。
こうした経緯から、はごろもフーズはツナの缶詰を製造した下請け会社の興津食品株式会社を相手取り、損害賠償を求める訴訟を提起しました。
はごろもフーズ側は訴訟にて、本件異物混入が報道されたことなどにより、
・ブランドイメージの低下
・家庭用シーチキンの売上高の減少
※2016年11月~2017年3月の期間の売上高が想定から約17億円減
などが生じたと主張しました。
2022年11月、静岡地方裁判所は、興津食品の責任を一部認め、約1億3100万円の支払いを命じる判決を言い渡しています。
報道などによりますと、賠償金の内訳としては
・クレーム対応のための緊急対応コールセンターの設置・運営等の費用
・商品の返品にかかった費用
・2016年11~12月の売り上げ減少分の粗利の2割程度など
とされています。
控訴審では下請け会社の責任範囲が争われた
一審判決を不服とした興津食品は控訴しました。
「今回の問題では健康被害が生じず、偶発的な異物混入だったため、下請け会社がどこまで責任を負うべきかを問いたい」という理由があったといいます。
興津食品側は、
・はごろもフーズがクレーム対応のために増設した電話回線の設置費用や、売り上げの一部の損失補填を、下請け会社に押し付けるのは不当であること
・はごろもフーズ担当者のスーパーマーケットなどへの報告対応が不十分であったことから、“スーパー側が不信感を持った”と考えられること
・このように、問題が大きくなった一因として、はごろもフーズ側による事後対応の拙さも挙げられること
などを主張しました。
報道によると、今年1月ごろから東京高等裁判所で和解に向けた協議が行われていたということです。そして、9月11日、裁判所側が提案した和解案を非公開の協議で両社が合意し、和解が成立しました。
なお、和解の具体的な内容は当事者間で非公開にする合意があったということで、明らかにされていません。
コメント
控訴の際、興津食品側の代理人弁護士は、元請会社が下請けを利用して莫大な利益を上げながら、偶発的な問題が発生した際、その対処に必要な費用を全て下請けに押し付けることの不当性を主張していました。
最終的な和解内容は明らかにされていませんが、和解の成立を受け、興津食品側は「裁判所が良識ある和解案を提案してくれた」とコメントしていることから、東京高等裁判所が、興津食品側の主張の一部を汲んだ和解案を提示した可能性は高いといえます。
下請け会社に製造を委託している場合であっても、異物混入対応に必要な費用を全て下請け会社に負わせられるわけではない。
そのことを十分に念頭において、下請け会社との取引を行う必要がありそうです。