はじめに
福岡市内の不動産会社が賃貸物件の入居者募集条件に“LGBT不可”という項目を記載して客に案内していたケースが複数あったと10月2日に報じられました。記載した会社は「不適切だった」として、対応を行なっているということです。
この報道を受けて、LGBT法連合会が10月3日に「強い遺憾の意を表明する」と声明を出しました。
「LGBT不可」がペット不可の項目と並列で記載
報道などによりますと福岡市内に住む男性(30代)は2023年2月に住居探しのため、ある不動産会社の店舗を訪れました。その際、物件の間取り図や賃料などが記載された物件情報の中に、“LGBT不可”と記されたものがあったということです。
LGBTとは、性的マイノリティーを示し、Lesbian(レズビアン、女性同性愛者)、Gay(ゲイ、男性同性愛者)、Bisexual(バイセクシュアル、両性愛者)、Transgender(トランスジェンダー、性自認が出生時に割り当てられた性別とは異なる人)の頭文字をとった言葉です。
最近では、Q(クィアまたはクエスチョニング)を付け加えて「LGBTQ」と表記されることもあります。
この不動産会社は、性的マイノリティーの部屋探しを支援する会社としても知られているといいます。男性には同性のパートナーがいることから、いずれ一緒に暮らすことのできる部屋探しを検討するため、相談に訪れていました。
一部報道によりますと、今年8月時点で、募集条件に“LGBT不可”という項目が“ペット相談(犬)不可”、“楽器相談不可”などの項目と並んで記載されていたということです。また、“LGBT可”という物件資料もあったと報じられています。
このような表記があった理由として、不動産会社側の物件管理の一環として、オーナーからLGBTカップルの同居承認を得た物件を“LGBT可”と、否定的なところなどは“LGBT不可”と表記して分類する運用が定着していた可能性があるとみられています。
『一般社団法人 性的指向および性自認等により困難を抱えている当事者等に対する法整備のための全国連合会(LGBT法連合会)』は10月3日に声明を発表。
“LGBT不可”という表記を行う商習慣が一般化しているとすれば、それは差別的取扱いそのものであり、強い遺憾の意を表明すると非難しました。
不動産会社の「LGBT不可」記載について(LGBT法連合会)
ジェンダーへの認識不足で批判も
性的指向によって消費者の選択肢を狭めることはもちろん、配慮のない表記を行うことも大きな問題となります。
7月からフジテレビで放送されたドラマ『新宿野戦病院』では、放送前に公開された公式サイトでの登場人物紹介が物議を醸しました。
ある登場人物の紹介文に「男か女か分からない」という表現を使ったことについて批判が集まったのです。その後、公式サイト側は、紹介文の当該部分を「ジェンダーアイデンティティ」という用語に変更。
しかし、そもそも言葉としての使い方が違うといった声が上がったほか、ジェンダーに対する企業の意識が低いのではないかという指摘が相次いだといいます。結果として、紹介文からジェンダーに関する記載は削除されました。
フジテレビ新ドラマ「新宿野戦病院」、登場人物の性別紹介に批判集まり訂正(企業法務ナビ)
コメント
性的マイノリティーの住居確保支援をうたっていた不動産会社で行われていた不適切な表記。
物件管理システム上、性的マイノリティーの方が住みやすい(オーナーに理解がある)物件の検索性を高めるために行っていたタグ付けが、そのまま物件資料に出力されてしまったものと見られますが、自分の属性だけを理由に入居を断られてしまうかのような表記を目にした側の絶望は、計り知れないものがあります。
さらに今回は、このような表記が“ペット相談不可”といった入居条件と並んで記載されていたことから、この不動産会社を訪れた男性は「犬や猫と同じ扱いか」と大きなショックを受けたといいます。
社内の多くの人間が目にしていたはずの物件資料で、どうして誰もこの表記の問題に気づけなかったのか。LGBT法連合会は、顧客に対する認識の欠如を挙げています。
このように、ジェンダーへの理解が社内で不足している場合、不適切な発信や対応につながるおそれがあります。カミングアウトができず、人知れず社内で困難を抱えている性的マイノリティーの従業員がいる可能性もあります。会社をあげて、ジェンダーへの理解を深めるための取り組みが求められます。
折しも、今日10月11日は国際カミングアウトデーです。この日はカミングアウトを祝い、前向きに支援しようとする日とされています。
性的マイノリティーの人たちがどのような問題に直面していて、どのような支援・対応を求めているのか。学び、思いを馳せる一日にしてはどうでしょうか。