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手続き簡略化で申立件数が倍増、「発信者情報開示制度」について

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はじめに

 インターネット上での誹謗中傷などについて、発信元の特定を求める手続きが法改正により簡略化されたことにより、申立件数が急増していることがわかりました。2024年上半期で、前年の2倍近くになっているとのことです。今回は発信者情報開示請求制度について見直していきます。
 

最高裁のまとめ

 発信者情報の開示制度を定めるプロバイダ責任制限法の改正法が2022年に施行され、これまで何段階にもわたる手続きが必要だった同制度が簡略化され、申立てがしやすくなりました。毎日新聞の報道によりますと、2024年上半期に全国のちさいに申し立てられた同手続きの件数は2979件で、23年上半期の1575件から2倍近くに急増したとされます。また申し立てはSNS事業者の所在地にある裁判所に請求する必要があり、23年1年間の3959件のうち約95%が東京地裁に集中していたとのことです。従来1年から1年半程度かかっていた手続きも、約3ヶ月で投稿者の住所や氏名などの情報が開示されるようになったとして一定の評価がなされている一方、通信事業者のログの保存期間が過ぎると特定は困難になるなど課題も指摘されております。
 

プロバイダ責任制限法の改正

 上でも触れたように改正プロバイダ責任制限法は2022年10月1日に施行されました。改正前の発信者情報開示制度では、(1)SNS管理事業者等に対する発信者情報開示の仮処分申立、(2)ログ保存の仮処分申立、(3)プロバイダに対する発信者情報開示請求の提訴、(4)損害賠償請求の提訴といった手順を踏んでおりました。誹謗中傷などの投稿を削除し、損害の救済がなされるまでに多くの裁判手続きを取る必要があり時間や費用の負担が大きいと指摘されてきました。そこで改正法では新たに「発信者情報開示命令事件に関する裁判手続」と呼ばれる手続きが新設され、1回の裁判手続きによってSNS管理者とプロバイダの両方に対する請求を行うことが可能となりました。これにより時間や費用の面で負担が大幅に軽減され、海外事業者に対しても実効性が確保されていると言われております。
 

発信者情報開示の手続きの流れ

 改正法での具体的な発信者情報開示の手続きとしては、(1)裁判所に発信者情報開示命令申立(8条)、(2)コンテンツプロバイダが有するアクセスプロバイダの名称の提供請求(15条1項1号)、(3)アクセスプロバイダに対する発信者情報開示命令申立(同2号)、(4)申立に併せて消去禁止命令申立、(5)発信者のIPアドレス、氏名・住所が開示されるといった流れになります。この手続きは非訟手続の一種とされ、この一連の流れは1つの手続きで行うことができます。非訟手続とは、訴訟手続に比べて裁判所の裁量の範囲が広く、簡易で迅速な手続きと言えます。訴訟ではないことから口頭弁論を経る必要がなく、公開もされず、事実認定も裁判所の職権調査が可能となっており、審理の結果も判決ではなく決定で出されることとなります。また不服申立ても控訴ではなく1度限りの抗告となります。
 

任意開示

 発信者情報開示請求は上記のように裁判所に申し立てることとなりますが、プロバイダ等に対して裁判所を介せずに任意に請求することも可能と言えば可能です。これを一般に任意開示と呼びますが、具体的な方法としては弁護士会照会(弁護士法23条の2)や証拠保全手続きなどを利用することも可能と言われております。しかしこれらはあくまで任意でありプロバイダ等が開示に応じることは稀と言われております。プロバイダ等が任意に開示した場合、開示された発信者からプロバイダが責任追及されるなどのリスクがあり、裁判所からの命令以外では応じない方針の事業者も多いからです。また発信者側が開示を拒否した場合にはプロバイダも開示に応じないとの対応をすることも多いと言われております。
 

コメント

 従来インターネット上で誹謗中傷や名誉毀損などの被害を受けた場合、まず投稿者のIPアドレスの開示を求め、それに基づいて更にプロバイダ等に投稿者の氏名・住所の開示を求めるといった2段階の手続きが必要でした。複数の裁判手続きを要するなど、時間も費用もかかり負担が大きいとされてきました。現行法ではこれが1つの非訟手続で行え、期間も大幅に短縮できるようになりました。これを受け、実際に利用される件数も急増しており、昨年は約4000件の申立がなされております。また2022年には改正刑法も施行され、侮辱罪の法定刑も厳罰化され30日未満の拘留または1万円未満の科料から1年以下の懲役・禁錮、または30万円以下の罰金等となっております。このようにインターネット上での誹謗中傷や名誉毀損的投稿への法規制が進んでおります。自社が被害を受けた場合に備え、これらの手続きを確認し準備しておくことが重要と言えるでしょう。
 

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