はじめに
2023年7月に東京・新橋の雑居ビルで爆発が起き、5人が負傷する火災が発生しました。警視庁は12月17日、当時、ビルで内装工事をしていた現場監督らを業務上過失傷害と業務上失火容疑で書類送検しました。
職務として火気の安全に配慮すべき社会生活上の地位にある者が過失で火災を起こした際などに問われる業務上失火罪。今年7月には福岡県での大規模火災で業務上失火罪に問われていた飲食店の元経営者に有罪判決が下されています。
工事中の不注意が事故誘発か
報道などによりますと、書類送検されたのは、30代の現場責任者と60代の作業員です。
事故が発生したのは昨年7月3日のこと。東京都港区新橋の雑居ビル2階の飲食店で爆発が発生しました。この爆発の影響で店長と従業員、ビルのそばを歩いていた通行人の男女、計5人が重軽傷を負っています。
当時、爆発のあった飲食店の一つ上の階では、水道管を取り除いて床を平らにする改装工事が行われていました。しかし、床から飛び出していたガス管の蓋を外そうとした際に誤って床下の配管の接続箇所が外れ、ガス漏れが発生。2階の飲食店にガスが充満し、その店の店長がたばこに火をつけようとしたところ、引火し爆発事故が起こったということです。
工事業者は事前に配管の位置を確認しなかった上、ガスを止めるなどの措置もとらずに作業したとみられています。
現場責任者と作業員の男性はいずれも容疑を認めているということです。
業務上失火罪について
故意に火災を起こしたのではなく、過失で火災を生じさせた場合に「失火罪」が適応されます。失火罪には3つの種類があり火災の程度や状況などにより異なります。
(1)失火罪
(2)重過失失火罪
(3)業務上失火罪
今回の新橋ビル爆発事故では、(3)業務上失火罪などに問われていますが、業務上失火罪は、業務上必要な注意を怠り、建物や物を焼損した場合に成立する犯罪です。
業務とは「職務として火気の安全に配慮すべき社会生活上の地位」を指します。具体的には、
・調理師
・溶接作業員
・ボイラー技士
・給油作業員
・警備員
・防火責任者
※警備員や防火責任者は火災の早期発見・防止を行う必要があるため
などが対象となります。
業務上失火罪の量刑は3年以下の禁錮または150万円以下の罰金と定められていますが、失火により誰かを負傷させたり死亡させた場合には、業務上過失致死傷罪が成立する可能性があり、その場合は5年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金に処せられます。
加熱中のフライパン放置で大火災飲食店店主は有罪に
今年7月には、業務上失火罪に問われていた火元の飲食店の元経営者に対し、裁判所が有罪判決を下しています。
元経営者は2022年8月10日に飲食店の厨房で、食用油の入ったフライパンを加熱したまま、その場を離れ火災を発生させました。飲食店からの炎は他の店舗にも燃え移り、29棟、計約3324平方メートルを焼損させています。
判決の中で裁判所は、「死傷者は出なかったものの、周囲の店舗や家屋が軒並み焼損して住民の生命、身体、財産に危険を発生させた」と、多くの店舗が廃業や移転を余儀なくされたと指摘。また木造建物密集地で店舗を経営する上で、火気の使用には何よりも注意しなければならなかったとして「刑事責任は相応に重い」としています。
一方で、元経営者が事実を認めて反省している点や、復旧対策会議に100万円を寄付したことなどを考慮し、禁錮2年・執行猶予4年の判決を言い渡しました。
コメント
工事の現場監督と作業員が刑事責任を問われることとなった新橋ビル爆発事故。
一方で失火責任法では、失火者に「重過失」があった場合に限り、民法709条が適用され、民事上の賠償責任が生じる旨、定められています。
判例上、火気を扱う事業者については、自らの過失に基づき火災を発生させた場合には、原則、「重過失」があると認定される傾向がありますので、業務上失火罪の対象となる事業者が失火した場合、高い確率で民事上の責任も問われることになります。
このように、火気を扱う事業者による失火は、被害者のみならず、事業者自身にも大きな損害をもたらすことになります。
火気を扱う事業を行う際、失火予防の重要性を社内あまねく啓蒙することが重要です。