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東芝 臨時株主総会で責任追及 経営判断の原則とは

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1 はじめに

 経営再建中の株式会社東芝(本社:東京都港区)は2017年3月29日、千葉県千葉市にある幕張メッセで臨時株主総会を開きました。株主総会に参加した株主からは2006年に経営判断について、「誤りだったのではないか」との厳しい意見が相次ぎました。
 そこで、今回は企業がどのような場合に経営責任を追及されるのかを見ていきたいと思います。

東京新聞(東芝株主、総会で経営責任追及「原発のせいで稼ぎ頭売却」怒り)

2 事実の概要

 東芝は3月29日、アメリカ合衆国にある子会社ウェスチングハウス(WH)が原子力事業において巨額の損失を出したとして、米連邦破産法11章(日本の民事再生法に相当)の適用をニューヨーク州の連邦破産裁判所に申請したと発表しました。
 これに伴い新たな損失が発生し、東芝の2017年年3月期連結決算は最終利益が約1兆100億円の赤字になる可能性が出てきました。国内製造業の最終赤字としては、日立製作所の2009年3月期に計上した7873億円を超え、過去最大の規模になるといえます。
 また、これを受けて麻生副総理兼財務大臣は、31日に東芝は今後、半導体事業の売却など経営再建を急ぐべきだという考えを示しました。

3 経営判断の原則について

(1)経営判断の原則とは
 会社と取締役とは委任関係にあり(会社法330条)、取締役は業務執行に当たり、善管注意義務(民法644条)を負います。善管注意義務とは、業務を委任された人の職業や専門家としての能力などから考えて通常期待される注意義務のことを指します。そして、取締役が善管注意義務に違反した場合には、会社に対して損害賠償責任(会社法423条1項)を負うことになります。
 もっとも、取締役の業務執行は不確実な状況で迅速な決断を迫られる場合や、時にリスクを取って挑戦すべき場合もあり、その判断が結果として間違っていたときに、善管注意義務に違反したとして損害賠償責任を負わせることにすると、取締役が萎縮してしまいかねません。その結果、挑戦的な判断がなされなくなることになる可能性があります。そこで、経営判断が問題になる場面において、取締役が情報収集や調査等を経て合理的な判断をしたといえる場合には善管注意義務を負わないという判断枠組みが経営判断の原則です。

(2)具体的な判断枠組について
 一般的に、経営判断の原則の判断要素について、①経営判断の前提となる事実認識の過程(情報収集とその分析・検討)における不注意な誤りを原因とする不合理さの有無、②事実認識に基づく意思決定の過程・内容の著しい不合理さの存否との点が挙げられます。そして、最高裁判例によると、経営判断の原則について取締役の「決定の過程、内容に著しく不合理な点がない限り、取締役としての善管注意義務に違反するものではない」としました。

経営判断の原則とは(BUSINESS LAWYERS)

最高裁平成22年7月15日判決(PDFファイル)

(3) 実際に問題になった事例
 親会社が事業再編計画を策定し、関連企業を子会社化する際に子会社の株式の買取価格が不当に高額だったとして、取締役の善管注意義務が問われました(最高裁平成22年7月15日判決)。
 また、経営不振に陥っている関連会社に対し、経営支援を行った会社の取締役が経営責任を追及されるケースがあります。

経営判断原則と関連会社への支援融資が違法とされるべきとき(法と経済のジャーナルトップ)

4 取締役が追及されうる責任

 取締役の善管注意義務違反により、「第三者」に損害が生じた場合には、第三者に対する損害賠償責任が追及されるおそれがあります(会社法429条)。また、取締役は株主総会において、出席した当該株主の議決権の過半数の決議が経られれば、「解任」される場合があります(339条1項)。
 したがって、企業の法務担当者は経営判断を証拠化するために、取締役が取締役会の議事録(369条3項)に情報分析及び意思決定の過程を具体的に記載するように指導すべきかと思います。


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