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米最高裁が被告の「居住地」を限定、米特許訴訟の管轄について

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はじめに

日経新聞電子版は29日、米連邦裁判所が特許侵害訴訟の管轄地について、被告の本社や事業所の所在地の裁判所に提訴すべきとの判決を出していた旨報じました。特許訴訟の頻繁な米国において、いずれの裁判所で訴訟ができるかは重要な問題です。今回は米連邦法における裁判管轄について見ていきます。

事件の概要

米食品大手クラフト・ハインツグループ傘下の企業が同じく米食品大手TCハートランドを相手取り特許侵害を理由に訴訟を提起していました。クラフト側は同社の本社が所在するデラウェア州連邦地裁に提訴していましたが、ハートランド側は自社の本社が所在するインディアナ州の連邦地裁への移送を求めていたとのことです。クラフト側は商品の販売を行っている地も「居住地」に該当するとしてデラウェア州連邦地裁にも管轄権が認められる旨主張しておりました。これに対し連邦最高裁はハートランド側の主張を認めインディアナ州連邦地裁への移送を認めました。

裁判管轄とは

裁判管轄とは、どこの裁判所に訴訟を提起するか、すなわち裁判所間の裁判権行使の分担を言います。日本においては、通常の訴訟ではまず被告の住所地、主たる事務所又は営業所の所在地が管轄裁判所となります(普通裁判籍 民訴4条1項)。さらに財産上の義務履行地や不動産の所在地、不法行為地などにも提訴できる場合があります(特別裁判籍 5条各号)。特許や実用新案等の知財訴訟については東日本は東京地裁、西日本は大阪地裁、控訴審は東京高裁のみの専属管轄となります(6条1項、3項)。意匠、商標、著作権の争いに関しては通常の管轄に加えて東京地裁、大阪地裁にも提訴できます(6条の2)。

米国特許侵害訴訟の管轄

(1)審判事項管轄権
米国での特許侵害訴訟はどの裁判所に提起すべきでしょうか、審判事項管轄権がまず問題となります。審判事項管轄権とは日本の民事訴訟で言うところの「事物管轄」のことです。事物管轄とは訴訟の内容や性質、訴額等に関してどの裁判所が分担すべきかの定めを言います。米合衆国憲法3条によりますと、特許権、商標権、著作権等の知財訴訟、海事訴訟、破産事件、独禁法事件、国に対する訴訟等は連邦裁判所が専属管轄となっております。米国は合衆国であることから各州裁判所と連邦裁判所が併存しており、まずどちらに提起すべきかが問題となるのです。特許侵害訴訟は連邦裁判所ということになります。

(2)対人管轄権
それでは次にどの連邦裁判所に提起すべきなのか、対人管轄権が問題となります。対人管轄権は日本で言う「土地管轄」のことで日本においては上記のとおりです。米連邦法では①被告が「居住」する地、②被告が侵害行為を行っており、かつ事業拠点を持つ地が管轄裁判所となります(一般管轄)。それに加え適正・公平の観点から③最小限度の接触が認められる地の裁判所にも特別に管轄権が認められる場合があります(特別管轄権)。

コメント

本件でクラフト側は同社が所在するデラウェア州連邦地裁に提訴しました。通常であれば相手方の所在地であるインディアナ州連邦地裁に提訴すべきところですが、過去の裁判例から商品の販売を行っている地も「居住」する地に該当するとしてデラウェア州で提訴しました。これまで下級審裁判例では連邦法の「居住」に商品販売地も含まれるとして広く管轄が認められてきた傾向があるとのことです。しかしこれでは公平と被告の便宜を図ることを趣旨とした管轄規定の意味が損なわれることになると言えます。今回最高裁は「居住」するとは登記上本社が存在することであると限定し、これまでの拡大解釈を否定しました。これにより特許権を買い取って特許訴訟を乱発し利益を稼ぐ、いわゆるパテントトロールの活動が困難になるとのことです。近年米国で経営する日本企業もその標的となっており、この最高裁判決によって応訴がしやすくなると言えます。米国で事業所所在地以外に提訴された場合にはこの判例を援用し、移送の申立を行うことが重要と言えるでしょう。


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