はじめに
スポーツ関連会社「ゴルフスタジアム」から練習用ソフトを購入したレッスンプロ十数人が、代金の立て替え払いをした信販会社に対し、債務の不存在確認を求め東京地裁に提訴していたことがわかりました。信販会社等を間に入れた建て替え払いやローン契約において、売買契約に問題が有った場合、信販会社からの支払請求を拒めるのか。今回は支払停止の抗弁について見ていきます。
事件の概要
ゴルフスタジアムは2004年9月に設立されたゴルフのスイング撮影ソフト「モーションアナライザー」等の販売やゴルフスクールなどを経営する会社です。訴状等によりますと、同社はレッスンプロやゴルフショップ、練習場の経営者に無料でホームページを作成するともちかけ、その見返りとしてゴルフのスイングを解析する機能を有する練習用ソフトを販売しておりました。同ソフトは価格が300万~500万円と高額で、信販会社とクレジット契約やリース契約を締結し、その代金分をゴルフスタジアム側から支払われるHPの広告料で賄う仕組みとなっておりました。しかしその後同社からの広告料の支払が滞り、ソフトを購入したレッスンプロ等の信販会社への支払債務だけが残る形となりました。原告側は数万円程度のソフトに数百万円のリース料が設定されており、違法性が疑われるにもかかわらず信販会社は調査を怠ったとして債務不存在を主張しています。
支払停止の抗弁とは
本来商品の販売会社と購入者間の売買契約は、信販会社と購入者間の立て替え払い契約は別個独立の契約であり、売買契約に問題があったとしても信販会社は購入者に対し支払を請求することができるのが原則です。しかしそれでは売買契約の解除等を行ったにもかかわらず、代金だけは信販会社から請求されることになり購入者にとって著しい不利益となります。また信販会社は一般消費者と比べて調査能力を有し、販売会社の監視・監督も行えます。そこで割賦販売法30条の4では購入者は「販売業者または・・・役務提供事業者に対して生じている事由をもって、当該支払の請求をする・・・業者に対抗することができる」としています。これを支払停止の抗弁権といいます。売買契約が債務不履行で解除された場合などは、信販会社からの請求も拒絶できるということです。
支払停止の抗弁の要件
(1)支払い方法
支払停止の抗弁を主張するための要件としてはまず、割賦販売法が適用される包括信用購入あっせんか個別信用購入あっせんである必要があります。包括信用購入あっせんとはあらかじめ信販会社の審査を受けて会員になりカードを提示して購入する場合を言います。つまりクレジットカードを使用した売買です。この場合は2ヶ月以上の期間にわたる支払の場合に限られます。個別信用購入あっせんとは、売買ごとにローンを組む方式です。この場合も2ヶ月以上の期間にわたって3回以上の分割払いに限られます。
(2)支払額
割賦販売法30条の4の規定は売買の価格が4万円に満たない場合は適用されません(割賦販売法施行令18条)。なおリボルビング方式の場合は3万8千円となります(同2項)。
(3)抗弁事由の存在
そして販売会社に対して抗弁事由を有していることが必要になります。抗弁事由としては、販売業者が商品の引き渡しをしない、見本やカタログと商品が違う、商品に瑕疵が有るなどの債務不履行等があり解除や取消ができる場合、その他売買契約が無効、不成立などの場合も挙げられます。この抗弁事由は消費者保護の観点からできるだけ柔軟に広く解すべきとされており、マルチ商法や特定商取引法に違反する場合、クーリングオフができる場合、その他公序良俗違反(民90条)などの場合も該当するとされております。
(4)適用除外
売買契約が営業のため、営業として締結されたものである場合には適用除外となります(35条の3の60)。つまり事業者間の商行為となるような売買契約は該当しないことになります。なお業務とは無関係に、社員の福利厚生のために購入した自販機やウォーターサーバーなどは営業のためのものとは言えず、原則通り適用されることになります。
コメント
以上の要件を満たす場合、購入者は信販会社からの立て替え払い債権の履行請求を拒絶することができます。そして販売者は信販会社から受けた立て替え払い代金を返還しなくてはなりません。そして判例では同法の要件を満たさない場合でも信販会社には一定の調査義務が課されており、「信義則上相当とする特段の事情」がある場合には信販会社からの請求を拒むことができるとしています(最判平成2年2月20日)。本件で原告側は数万円程度のソフトに高額のリース料が設定されており違法性が疑われていたのに信販会社は一切調査していなかったとして調査義務違反を主張しています。同様の事例でマルチ商法として違法無効とされた契約につき、加盟店への調査・管理義務を尽くさず漫然と利潤の追求に走ったとして信義則違反が認められた裁判例も存在します(大阪高裁平成16年4月16日)。本件でも調査義務違反が認められ可能性は十分にあると思われます。立て替え払い契約の際には商品に対して金額が過剰ではないか、各種法令に違反は無いか、マルチ商法等ではないかなど、販売会社、信販会社、購入者の3者がそれぞれ注意を払うことが重要と言えるでしょう。