はじめに
日経新聞電子版は2日、投資家向け情報を提供するウィルズ(東京都)が9月から電子議決権サービスを開始する旨報じました。これにより日本国内での株主総会手続の電子化が促進されるのではないかと期待されます。今回は会社法上の議決権行使について見ていきます。
事案の概要
報道等によりますと、株式会社ウィルズはブロックチェーン技術を応用した株主管理サービス及び電子議決権の実証実験を開始するとのことです。ブロックチェーンとはビットコイン等の中核技術でネット上で分散した情報の共有台帳による管理システムです。これによりデータの改ざん防止やデータの整合性などが確保されます。株主は各企業が用意した専用サイトで議決権を行使し、第三者が投票できないよう厳重な管理がなされており、投票結果は不正操作ができないよう当該企業と信託銀行、ウィルズの承認がなければ確認できないとのことです。このシステムを導入することによってメールなどで招集通知を代替でき、株主管理コストの削減にもつながるとされております。
会社法上の議決権
株主はその保有する株式1株につき原則1個の議決権を有することになります(308条1項)。単元株式制度を採用している場合は1単元につき1個の議決権となります(同ただし書き)。議決権行使は会社の実質的所有者である株主が会社の経営や意思決定に参加できる重要な権利と言えます。議決権は例外的に制限される場合がいくつかあります。定款で定められた議決権制限種類株式(108条1項3号)、会社自身が保有する自己株式(308条2項)、会社同士が互いに株式を保有している場合である相互保有株式(同1項かっこ書)などの場合は議決権が認められません。議決権の行使は株主総会に出席して行うことが原則ですが、いくつか例外が規定されております。以下具体的に見ていきます。
議決権の行使方法
(1)書面投票
株主総会に出席せずに書面の送付による投票を認めることができます(298条1項3号)。書面投票を認めるかは取締役会で決定しますが、株主が1000人以上の会社は書面投票の採用が義務付けられることになります(同2項)。書面投票を認める場合には招集通知に議決権行使書面を参考書類とともに送付することになります(301条)。
(2)電子投票
これも上記書面投票と同様に取締役会における招集決定の際に採用する旨決定することになります(298条1項4号)。やはり書面投票と同じように招集通知に参考書類を添付して送付することになります(302条)。この制度は平成17年の商法大改正の際に新設されたものとなります。それ以前は実際に出席するか書面投票しか認められておりませんでした。
(3)代理行使
議決権を代理人によって行使する方法です(310条1項)。株主総会は一時期に集中することから、複数の会社の株式を保有している場合は出席できない場合もあり、そういった場合でも議決権を行使できるよう配慮されたものです。代理人は他の株主に限定するといった定めを定款に置くことも判例上認められており(最判昭和43年11月1日)、多くの会社で採用されております。代理権の授与は株主総会ごとに個別になされる必要があり、包括的に代理権を授与することはできません(同2項)。
(4)不統一行使
複数の議決権を有する株主は、議決権を統一せずに行使することができる場合があります。たとえば議案について一方の議決権では賛成に、他方では反対に投じるといったものです。しかし不統一行使する場合は総会の3日前までに会社に通知する必要があり、会社は株主が他人のために株式を保有する場合以外は不統一行使を拒むことができます(313条)。他人のために保有する場合とは信託会社などが多くの投資家のために多数の株式を保有する場合などです。それゆえ一般株主が行うことはほとんどありません。
コメント
以上のように株主の議決権行使には様々なものが存在します。平成17年改正以降に新設された電子投票制度はそのシステムを基本的には各会社がそれぞれ構築しなくてはならないことから、コスト負担の増加を嫌ってあまり導入が進んでいないのが現状です。本件でウィルズ社が開発したシステムを利用することによって株主総会の電子化の促進が期待できるかもしれません。多くの株主を抱える上場企業では株主の管理や議決権行使方法の確保が重要な課題となってきました。これらに不備がある場合は株主から決議取消の訴えが提起されるおそれもあり注意が必要です。株主一人に対する手続上の不備は判例上、他の株主でもその不備を訴えることが認められております。会社の規模や株主の数、上場しているか否か等、それぞれの会社の実情に合わせて、どういった議決権行使方法を採用するかを慎重に決定することが重要と言えるでしょう。