問題の経緯
弁護士法72条は、要件を①弁護士又は弁護士法人でない者は(非弁護士性)、②報酬を得る目的で(有償性)、③他人の(他人性)④法律事務を取り扱い、又は、周旋をすることを(事件性)⑤業とする(反復継続性)ことができない。ただし、⑥この法律又は、他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない(法定除外事由)として、非弁護士の法律事務の取り扱いを制限しています。
この規定について、親子会社間での法律事務の取り扱いが、親子会社はあくまで別人格であり、③他人性が認められるとして、②有償性があり、⑤反復可能性がある場合には、④事件性の要件を満たせば、⑥法廷除外事由がない限り、弁護士法72条に抵触する可能性があるのではないかという指摘がされていました。
この問題について、平成27年10月27日、経団連は政府規制改革会議の作業部会において、子会社に対するコンプライアンス指導が適法であると明確化することを要望しており、「規制改革実施計画」(平成28年6月2日閣議決定)では、親子会社における有償での法律事務の取り扱いにつき、法務省として、弁護士法第72条の規制対象となる範囲・態様に関する予測可能性を確保するという観点から検討を行い、必要な措置を講ずることとされていました。
法務省の発表
これを受けた法務省の上記計画に基づく結果が公表されましたので、ご紹介いたします。
『弁護士法第72条は罰則の構成要件を定めた規制であるから、もとより、その解釈・適用は捜査機関、最終的には裁判所の判断に委ねられるものである。』と留保しています。その上で、あくまで一般論として、『株式会社である親子会社間の法律事務の取り扱いに関し、例えば、以下の例に挙げるような親子会社の子会社に対する行為については、それが反復的かつ対価を伴うものであったとしても、他に同条の趣旨(最高裁判所昭和46年7月14日大法廷判決・刑集25巻5号690頁参照(下記※記載))に反する事情(紛争介入目的で親子会社関係を作出した等)がない限り、同条に違反するかどうかは、(中略)行為の内容や態様だけではなく、親会社・子会社の目的やその実体、両会社の関係、当該行為を親会社がする必要性・合理性その他の個別の事案ごとの具体的事情を踏まえ、同条の趣旨に照らして判断されるべきものである』とされました。
総括
今回の発表は、最終的な判断は裁判所の判断に委ねられると留保したうえで、一定の判断基準を提示しました。しかしながら、個別の判断が必要とされ、いまだ弁護士法第72条の規制対象となる範囲・態様に関する予測可能性が確保されたとはいいがたいといえるでしょう。親子会社間での法律業務の取り扱いについては、①非弁護士性と③他人性が認められる以上、②有償性と⑤反復継続性がある場合の④事件性の判断については、今後も慎重な検討を要することになりそうです。
※弁護士法第72条の趣旨(最高裁判所昭和46年7月14日大法廷判決・刑集25巻5号690頁参照)
弁護士は、基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とし、ひろく法律事務を行なうことをその職務とするものであつて、そのために弁護士法には厳格な資格要件が設けられ、かつ、その職務の誠実適正な遂行のため必要な規律に服すべきものとされるなど、諸般の措置が講ぜられているのであるが、世上には、このような資格もなく、なんらの規律にも服しない者が、みずからの利益のため、みだりに他人の法律事件に介入することを業とするような例もないではなく、これを放置するときは、当事者その他の関係人らの利益をそこね、法律生活の公正かつ円滑ないとなみを妨げ、ひいては法律秩序を害することになるので、同条は、かかる行為を禁圧するために設けられたものと考えられる。