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パワハラ対策について

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1 はじめに
(1) パワハラをめぐる現状
 厚生労働省が平成28年7月25日から10月24日までに実施した調査によると、 過去3年間に1件以上パワーハラスメントに該当する相談を受けたと回答した企業は 、 36.3%、過去3年間にパワーハラスメントを受けたことがあると回答した従業員は、32.5% に及びました。
 また、厚労省がまとめた「民事上の個別労働紛争の相談」の中で、「職場のいじめ・嫌がらせ」の相談件数は2017年度が7万2000件に及び、前年度比1.6%増で6年連続トップとなっています。
(2) 法整備等の具体的な対策
  日本も加盟するILO(国際労働機関)が実施した80カ国調査では、「職場の暴力やハラスメント」について規制を行っている国は60カ国あります。しかし、日本は規制が無い国とされています。
2 パワハラとは
(1) パワハラ(パワーハラスメント)の定義
  パワハラとは、「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内での優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」をいいます。
 ここで注意すべきは、同じ「業務の適正な範囲を超えて」という限定が付けられていることです。
これは、業務上の指導との区別をつけるためです。
  例えば、「安全靴はかないで工場に入るな!」とか,「お前が遅刻すれば,全員の作業が遅れるから怒鳴るんだ!」というような発言であれば、業務上とは無関係であるとは言えません。特に,工場等の労働安全を考えたり,作業工程の最初に来る労働者に要求される時間管理であったりすれば,指摘は必要なものと言えるでしょう。
  しかし、「給料泥棒!」 「間抜け面!」などという言葉が続いたら,これはパワハラになるでしょう。なぜなら、業務内容とは関係なく、人格を攻撃しているからです。 
(2) パワハラにあたるかどうかの基準
 (1)にも述べたように、パワハラだと言えるためには、①職場の地位・優位性を利用している、②業務の適正な範囲を超えた指示・命令である、③相手に著しい精神的苦痛を与えたり、その職場環境を害する行為である事の3つの条件が必要です。
  また、パワハラには、①身体的障害②精神的侵害③人間関係からの切り離し④過大な要求⑤過小な要求⑤個の侵害といった6つの類型があります。
3 裁判例
(1) 新和産業事件
【事実の概要】
  営業職の課長職で10年間勤務していた原告が、退職勧告を拒否したことから、報復措置として倉庫業務に配置転換させられた事件です。
  判決では、配置転換が業務とは無関係の報復措置であるとして、差額賃金および不法行為の損害賠償請求も認められました。
【パワハラと認定された基準】
  本件で問題となったのは、倉庫業務への配置転換命令です。
 本件配置転換は、表面的には業務命令ですが、本判決は、①本件配置転換命令は、原告の能力によるものではないこと、また、これまでに大卒者が倉庫業務に従事した前例はなかったことなどから、原告を営業部から倉庫へ配置転換させる必要性は乏しかったこと、②業務上の必要性とは別個の不当な動機及び目的によるものであること、③通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであること、を理由に、パワハラであると認定しました。
(2) 社会福祉法人県民厚生会事件
【事実の概要】
  デイサービスのセンター長であった原告が、上司である常務理事からパワハラを受け、適応障害に陥ったとして慰謝料を請求した事件です。
判決では、上司の叱責やそれによる原告の心理的負荷は認定されましたが、私怨等、業務上の適正な範囲を超えるものと認められる証拠はないとして、
パワハラとは認定されませんでした。
【パワハラと認定されなかった理由】
  本件では、被告理事の行為により、原告が相当程度の苦痛を受けたことは認められましたが、被告理事の行為はあくまで業務遂行の目的に出たものであること、指示や指導内容が職務上不当とまではいえないことから、パワハラ行為をしたとは認められないと判断されました。
(3) ホンダカーズA株式会社事件
【事実の概要】
 被告(会社)の元従業員である原告が、会社内の先輩従業員から指導の名の下に暴言、暴行等のパワーハラスメントを受けたとして、会社に対し、不法行為又は労働契約上の安全配慮義務違反に基づき慰謝料の支払いを求めた事案です。
この事案では、証拠が不十分であるとして、パワハラとは認定されませんでした。
【パワハラと認定されなかった理由】
  事実の概要にも述べたように、原告が主張したパワハラの事実は、客観的な証拠がないという理由で認められませんでした。
4 まとめ
  パワハラについては、現時点ではガイドライン等に留まっており、具体的な規制については法整備に委ねるしかありません。
  しかし、裁判例のように、パワハラを理由に被用者(元被用者)から訴えられたり、インターネットの掲示板等による悪評の流布等、
社会的評価の低下を招き、採用希望者が減る等、企業の存続問題にも繋がりかねないといえます。
  そこで、企業の法務部が中心となり、企業内に相談窓口を設けたり、ガイドラインを作成し、配布する等の対策が必要になります。
  パワハラが起きる背景として挙げられるのが、長時間労働によるストレスや、それによる社内間のコミュニケーション不全があります。
  このように、企業におけるパワハラ対策で、最も大切なことは、個人の性格の問題ととらえず、職場の問題であるとの認識を社内全体で共有することです。


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