1.はじめに
来年10月から一部の消費税が10パーセントに引き上げられることが表明されました。ますます懐事情が厳しくなることから、兼業・副業をしようと考える人が増えることが考えられます。また、政府の働き方改革では兼業・副業が推進されています。
このような状況の中、2017年にリクルートキャリアが行った調査によると77、2パーセントの会社が兼業・副業を禁止しています。
多くの会社が兼業・副業を禁止しているという実情がありますが、兼業・副業が発覚した場合、会社は懲戒処分を行うことができるのでしょうか。
2.兼業・副業とは
まず兼業とは、他に他の事業・仕事を兼ねて行うことをいいます。また副業とは、法的に定義はありませんが、本業よりも低い労力で行う仕事をいいます。
兼業・副業は会社の勤務時間外に行われることから、原則としてはプライベートな時間に行う兼業・副業を会社が禁止することはできません。なぜなら、プライベートな時間に何をしようが従業員の自由だからです。
しかし、絶対的に兼業・副業が認められるわけでもありません。これまでの裁判例の中でも兼業・副業が認められ会社の行った懲戒解雇が無効となったものと、禁止される合理性があると認められて懲戒解雇が有効となたものがあります。
3.過去に兼業・副業が問題となった裁判例
<解雇無効>
・十和田運輸事件(東京地裁平成13年6月5日判決)
運送会社で家電製品を小売店に配送する業務に従事していた原告が、運送先の小売店から家電製品を引き取ってリサイクルショップに持込み代価を受けていたことが発覚し、懲戒解雇された事案
・定森紙業事件(大阪地裁平成元年6月28日決定)
紙製品の販売会社の社員が、妻の経営する競業他社の営業に関与していたところ懲戒解雇された事案
<解雇有効>
・ナショナルシューズ事件(東京地裁平成2年3月23日判決)
商品部長が競業会社を経営したこと、商品納入会社にリベートを要求したことを理由として懲戒解雇された事例
・小川建設事件(東京地裁昭和57年11月19日決定)
二重就職を懲戒事由とする就業規則の規定に基づき、勤務時間外にキャバレーで会計係等として就労していた原告が懲戒解雇された事案
・橋元運輸事件(名古屋地裁昭和47年4月28日判決)
従業員が競争会社の取締役に就任していることを理由として就業規則にもとづき懲戒解雇された事案
4.ポイント
このように懲戒解雇が有効・無効と判断が分かれるのはなぜでしょう。
近年の裁判例によりますと、禁止されている兼業・副業は
①過重労働となり、本来の勤務に支障を生じる場合
②営業の秘密が漏洩する恐れがある場合
③競業他社に就業して会社の利益を害する場合
④会社の信用を失墜させる恐れのある場合
等を指すと考えられています。
裁判例によると、これらの場合に該当するか否かは、兼業・副業の期間、時間、業務内容等を総合的に考慮して判断することとなります。
このことから、兼業・副業の期間・時間が短かったり、業務内容が本業と競業しなかったり、楽なもので本業に支障をきたすものでない場合には、会社は当該従業員に対して懲戒処分を行うことはできないものと考えられます。
また、①~④の場合に該当するとしても、解雇権の濫用禁止(労働契約法第16条)により解雇できない場合もあります。
5.コメント
政府が兼業・副業を推進していること、インターネットの普及により自宅でも仕事が行える状況になっていることから、今後兼業・副業を行う者は増えていくと考えられます。そのとき、会社は兼業・副業を禁止した就業規則に反するからという理由だけで簡単に懲戒処分を行うことはできません。
会社側としては、就労時間の把握や健康状態の把握、禁止事項の徹底周知等を行って兼業・副業を受け入れる体制を構築する段階になっているのではないかと考えます。