1 はじめに
ビジネスの状況は常に変化していくため、契約を解除する必要が生じることがあるかもしれません。契約書にはたいてい解除事由が書いてあるため、「解除事由該当性を確認し、解除権を行使すれば解除できる」と助言することもできますが、解除条項の読み方等で現場を混乱させる恐れもあります。そこで今回は、法務部が社内から契約解消に関する相談を受けた際、どのような体制を取っていくべきかを検討していきたいと思います。
●LSC綜合法律事務所ー契約の解除とは
2 案件への体制決定
(1) 体制決定に当たって
契約解除に関する際の基本対応としては、①案件対応の体制決定②契約書確認③事実関係調査・当てはめ④解除条項該当性について検討することが流れとして考えられます。
案件対応の体制としては、①社内担当部署のみ②法務部も関与させる③外部弁護士も関与させる体制の3つが考えられます。最初にここを決めると、人員を必要最小限で利用し、効率的に案件を処理していくことが可能になるでしょう。体制決定のためには、a解除条項該当性判断の難易度b損害賠償請求権行使の有無c解除しにくい類型の契約であるか否かd契約のビジネス上の重要性e解除が会社に与える影響の5つを検討します。
<基本対応>
①案件対応の体制決定
②契約書確認
③事実関係調査・当てはめ
④解除条項該当性の検討
<案件対応体制3種類>
①社内担当部署のみ
②担当部署+法務部
③担当部署+法務部+外部弁護士
<体制決定のために検討する5要素>
a解除条項該当性判断の難易度
b損害賠償請求権行使の有無
c解除しにくい類型の契約であるか否か
d契約のビジネス上の重要性
e解除が会社に与える影響
(2) 解除条項該当性判断の難易度
条文の形式によって、解除条項該当性の判断が難しいものとそうでないものがあります。
例えば特許実施許諾契約において、第三者に再実施権を与えることを禁止する条項を付けていた場合、契約違反の事実は客観的に認識しやすいと言えます。このように、客観的に解除条項から要件該当性を読み取れる場合は、大きな問題が発生しにくいと考えられ、解除通知作成時に解除事由が適切に表記されているか等の事務的な面の適正を見れば足りることがあります。料金のことを考えると、外部の弁護士を使うまでもないと考えられ、担当部署と法務部のみで解決できるケースであると考えられます。
製品供給契約で債務不履行を理由とする解除権を行使する場合、典型的な解除例のように思われますが、仕様書の解釈等について当事者に齟齬があることがあり、解除事由に該当するか否か争いが発生することがあります。この場合は、解除条項該当性判断の難易度は高くなります。どのような事実関係があって仕様水準が決まったか、仕様書は客観的にどう読めるのか、裁判所にはどう受け取られるのかを検討した方が良いでしょう。特に契約書の客観的な解釈については、外部の弁護士を利用して、第3者の目を取り入れることが望ましいです。
(3) 損害賠償請求権行使の有無
解除と同時に損害賠償を請求することもできます。請求が通るかの見通しを立てたり、通らなかった場合の今後のことを検討する必要があるので、この分野はこれまで訴訟を依頼してきた弁護士などに依頼する方が良いでしょう。
(4) 解除しにくい類型の契約
継続的契約である場合、互いに長期間の契約を前提に事業計画を立てているため、経済的に大きな損失となる可能性が考慮され、裁判で解除が認められにくい傾向にあります。裁判では、解除条項に該当するとしても、「正当な事由」「合理的理由」「やむを得ないと認められる特段の事情」等が必要とされることがありました。継続的契約を解除する場合はこれらの事由の有無を現場と確認し、過去の裁判例の検討や訴訟の方針等は外部の弁護士に相談する体制とするのが良いでしょう。「やむを得ないと認められる特段の事情」は、①契約解消の必要性②想定されている取引期間③継続希望者への影響の度合い④解約予告期間⑤当事者の規模・力関係等を検討して判断されることが多いようです。
「契約のいずれかの条項に違反したとき」という条項も典型的であり、契約上の義務違反さえ認定できれば解除できるように読めます。この点について、判例は「契約の要素をなす債務」の不履行があった場合に限られるとしています。改正民法541条・542条にも、この趣旨が反映される予定です。契約の要素となるくらいの債務かどうかは、会社の状態に詳しい現場に事の重大さを確認した上で、会社全体の状況に詳しい顧問弁護士等にも判断を求めると良いでしょう。
●スプリングサン法律事務所ー継続的契約の終了(解約権が制限される理由)
●神戸合同法律事務所ー民法が変わる(34)~催告解除の要件(民法541条)
(5) 契約のビジネス上の重要性
会社によっては、一定金額以上の契約解除については、上位部門の決済を必要としているとしているところもあるかと思います。金額で線引きはされていますが、なぜそのラインで線引きされているのかを考え、場合によってはその金額以下でも上位部門への相談をすることも考えられるでしょう。今解除する場合は一定金額以下の金額で済むかもしれませんが、今後大きく事業が成長していったりすることも考えられるからです。会社にとって重要な契約か、普段から意識しておくと、重要性をスムーズに判断できるでしょう。
(6) 解除が会社に与える影響
契約を解除するということは、取引先を1つ失うということを意味します。契約を解除し、相手方の売上に大きな損害を与えた場合、損害賠償を請求される可能性があるということも頭に入れておく必要があるでしょう。解除によって相手方にどれだけの損害を与えることになるかを予想し、相手方から損害賠償を請求される可能性がどれくらいあるか、請求されるとすればどれくらいの額を請求されるか考えた上で、それでも解除するか考えると良いでしょう。また、取引先が1つ無くなることになるため、新たな取引先が見つかるまで、業務が円滑に行われなくなる可能性があります。そのため、他社との契約で補うことができるかという代替案も検討しておく必要があります。
契約解除に不満のある相手方企業がSNS上で解除の事実を公開し、それを見た不特定多数の者が自社に対して批判的なコメントをネットに投稿することも考えられます。イメージ低下を避けるため、事案によっては広報部等との連携も必要になってくるでしょう。解除によるイメージダウンを避けたい場合は、契約期間が終了するまで待つという方法もあります。
●OZMA PR-企業イメージ失墜を招く「ネットリスク(炎上リスク)」を防ぐためには
3 解除権の行使に当たって
(1) 解除手段の確認
解除権を行使することになった場合、契約書を確認して、解除の実施手続に関する条項があるかを確認しましょう。当該条項に従った方法で通知しなければ、解除を有効に実施したと評価されないおそれがあります。「相手方に到達すれば何でもよいだろう」と考えず、手段等も必ず確認するようにしましょう。
(2) 通知方法決定
通知の方法も考える必要があります。通知方法を規定した条文に複数の方法が列挙されていても、どの方法を採用するかで相手に与える印象が変わります。メールでの通知よりも書面での通知の方が、事態の深刻度を伝える手段としては適していると言えるでしょう。
(3) 発信者について
通知の発信者についても同様に、相手方にどのような印象を与えるかを検討した上で決定していくと良いでしょう。①契約担当者名②担当者所属の部署の上司名③役員名④代表取締役名での通知が考えられます。役職が上になるほど相手に事態の深刻度をより大きく伝えることになります。深刻度をそれなりに伝えつつ、不必要な軋轢を避けられるよう、適切な発信者を選ぶようにしましょう。
(4) 通知内容について
解除を通知された側としては、解除に納得できない場合、解除の効力を否定してくると思われます。解除事由が不明瞭であると言われないよう、解除に至った原因を現場とよく打合せし、解除を通知する文章を作ったあと、客観的に見ても良くわかるような文章で書かれているか、外部の弁護士の確認を得ると良いでしょう。
●本気経営.comー条文の順序と契約解除条項|失敗しない契約書の書き方①
●みずほ中央法律事務所ー解除権の行使の法的性質・効力発生時期と撤回の可否(民法540条)