はじめに
アルペンは26日、募集していた希望退職者が355人に達したと発表しました。これにかかる約21億円の費用は業績予想には織り込み済みとのことです。今回は早期退職制度の問題点等について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、スキーなどのレジャー用品大手「アルペン」(名古屋市)は2月4日から早期退職社を募集しておりました。抜本的な構造改革と収益性の改善のための施策の一環とのことです。募集人員は300名程度で対象は同社と子会社である株式会社ジャパーナに在籍する45歳以上64歳未満の社員とされます。退職日は今年3月20日で通常の退職金に加え特別加算金が支給されます。これに要する約21億円の費用は6月期決算に特別損失として計上されるとのことです。
早期退職制度とは
早期退職制度とは、会社が従業員に対して退職希望者を募集し、希望する従業員には通常の退職よりも有利な条件を提供する制度を言います。就業規則に定められている場合や、その都度募集がなされる場合があり通常は希望者に対して割増退職金が支給され、場合によっては再就職先等のあっせんを伴うこともあります。多くの企業で導入されている制度ですが、この制度にもメリット・デメリットがありまた法的な問題が発生することもあります。以下具体的に見ていきます。
早期退職制度のメリット・デメリット
早期退職制度の一番のメリットは人員の整理と人件費の削減が期待できることです。高齢となり給与も高額となった人員と若い従業員を交代させ社内改革を行い、増加していく人件費を抑制することができるということです。退社する従業員としても通常よりも割増された退職金を得て定年よりも早い時期に退職することから第二の人生を計画しやすくなります。一方デメリットとしては短期間で退職希望者が集中した場合相当のコストを要することとなり、また会社にとって必要な人材が過剰に流出してしまうと言った事態もあり得るということです。そのため多くの企業では早期退職の条件として会社の承認を必要とする旨の定めを置くことがあります。
早期退職制度と法的問題
早期退職制度を巡ってしばしば問題となるのが早期退職の成立の有無について会社側と従業員で相違が生じることです。例えば次のような事例が存在します。ある企業で事業年度の途中で早期退職制度が廃止されましたが、廃止前に早期退職希望を申し出ていた従業員が割増退職金を受け取る権利の確認を求め提訴したものがあります。この事例で最高裁は同社の就業規則では会社の承認を条件としており承認するか否かは会社の裁量とし、従業員は通常の退職は可能であることから退職の自由も侵害されないとしました(最判平成19年1月18日)。つまり会社の承認がなければ成立せず、合理的な理由があれば承認するかどうかは会社の裁量であるということです。
コメント
本件でアルペンは約21億円の費用で300人以上の人員を整理し構造改革を行います。このように経営再編の一環として人員整理が必要な場合には早期退職制度を利用することも可能ということです。一方で人員が想定よりも多く流出した場合には事業としての価値が減少し事業譲渡や吸収分割といった組織再編に支障をきたすこともありえます。そこで条件として会社の承認を要する旨の規定を置くことが考えられます。この場合でも承認の有無について事後、紛争が生じることもあり得ることから早期退職の申し込みとその承諾は書面で行うことが無難と言えます。また承認しない場合や早期退職制度自体を廃止する予定がある場合には早めに従業員に周知し、他の制度がある場合はその勧奨や他のグループ企業等へのあっせんが可能であればそれらを踏まえた相談に乗るなどの柔軟な対応が望ましいと考えられます。早期退職制度を導入している場合は今一度就業規則の規定を見直しておくことが重要と言えるでしょう。