はじめに
兵庫県警は13日、スポーツ用品大手「アシックス」(神戸市)の元社員(31)が社外秘のデータを不正に入手していたとして不正競争防止法違反の疑いで逮捕していたことがわかりました。同業他社に再就職をしていたとされます。今回は不正競争防止法の営業秘密の漏洩について見直していきます。
事件の概要
報道などによりますと、アシックスの元社員は昨年3月31日~5月9日にかけて、アシックス社員に割り当てられたIDをパスワードを使用して同社管理のサーバーから同社のシューズに関する営業秘密のデータ約3万6千件を社用メールから私用アドレスに転送して不正入手した容疑が持たれております。アシックスが同容疑者の社用メールを確認したところ不正な送信記録が見つかり発覚したとされます。同容疑者は「退職に際し、自分の役に立つと思い、不正に入手した」と容疑を認めているとのことです。
不正競争防止法による規制
不正競争防止法では営業秘密について①不正取得行為、②不正取得と知りながらまたは重過失により取得等、③取得後に事情を知って使用等、④得た営業秘密の不正開示等、⑤不正開示情報と知りながらまたは重過失により使用等、⑥取得後に不正開示であることを知って使用等が禁止されております(2条1項4号~9号)。不正な行為によって営業利益を取得したり、正規に取得した営業秘密を不正な目的で使用することなどが禁止されているということです。これらの行為は不正競争行為の一種として差止請求(3条)や損害賠償請求の対象となり(4条、5条)、また罰則として10年以下の懲役、2000万円以下の罰金またはこれらの併科となります(21条1項)。
営業秘密とは
それではここに言う「営業秘密」とはどのようなものでしょうか。営業秘密に該当するためには以下の3つの要件を満たす必要があると言われております。
(1)秘密管理性
まず企業側の秘密管理意思が秘密管理措置によって従業員に明確に示され、従業員の認識が確保されていなければならないとされます。つまり適切に管理された上で、従業員に営業秘密であることが明らかにされていなければならないということです。
(2)有用性
そして有用な情報でなければなりません。これは企業にとって商業的価値が有ればよく、開発中に失敗した情報なども有用性は認められると言われております。なお公害に関する情報など公序良俗に反するような内容のものは該当しないとされます。
(3)非公知性
また既に刊行物に掲載されているなど一般に入手できるような内容のものも営業秘密に該当しません。あくまでも企業の管理下以外で入手できない状態になっていなければならないということです。
秘密管理措置の具体例
秘密管理措置の具体例としてはまず、紙媒体の場合は秘密が記載されている部分を他の情報から区分した上で「マル秘」の表示を行う、施錠可能なキャビネットに保管する、コピー撮影禁止、持ち帰り禁止などを周知するといった方法が挙げられます。そして電子データの場合もやはり「マル秘」添付とID、パスワードの管理、そして人事異動、退職ごとにパスワード等の変更とアクセス履歴の調査を行うことなどが挙げられます。
コメント
本件でアシックスはシューズに関するデータをサーバーコンピューターで管理し、パスワードがなければアクセスできない状態で営業秘密であることを明示していたものと考えられ、営業秘密該当性は満たすものと思われます。また退職後に当人のアクセス履歴等の調査も行われており秘密管理措置も取られていたと言えます。営業秘密の漏洩事件で一番問題となってくるのが秘密管理性です。経産省の営業秘密管理指針でも管理の仕方が詳細に例示されており、また判例を見ても管理の態様は企業の規模や業種、秘密の内容などによって一様ではなく、パスワード等のアクセス制限すらされていなくても営業秘密と認められた例もあります(大阪地裁平成15年2月27日)。営業秘密漏洩は上記のとおり罰則も重く厳格に規制されておりますが減少の傾向は見られません。海外企業に高値で買い取られる場合や従業員の転職の手土産となる例も多く見られます。今一度自社の営業秘密の管理体制と従業員への周知教育を見直すことが重要と言えるでしょう。