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ネット中傷での開示迅速化へ、プロバイダ責任制限法改正の動き

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はじめに

総務省の有識者会議は昨年11、ネットでの中傷被害の救済を迅速化するため1回の裁判手続きで投稿者情報を開示できる制度の新設などを盛り込んだ最終報告書案を取りまとめていたことがわかりました。パブリックコメントを経て今年の通常国会に改正案提出を目指すとのことです。今回は発信者情報開示手続きの現状と改正案について見ていきます。

事案の概要

 現状インターネットのSNSや掲示板などで誹謗中傷や名誉毀損的な投稿被害を受けた場合、まず投稿者のIPアドレスを特定し、プロバイダ等に投稿者の住所氏名などの開示を受けて損害賠償請求をするといった流れになります。裁判所での手続きも2回~3回におよび投稿者の特定だけで半年ほどの時間を要します。そこで現在政府はネット中傷による被害の救済を迅速化するため1回の非訟手続きで投稿者情報の開示を受けられる制度の創設を目指しているとのことです。昨年4月に有識者会議を設置し、8月には省令改正により投稿者の電話番号も開示対象に加えられております。

発信者情報開示手続き

 現行のプロバイダ責任制限法による発信者情報開示の手続きはおおむね次のとおりです。まず中傷的な投稿が行われているサイトの運営者に投稿者のIPアドレスの開示を求めます。通常通信ログは数ヶ月で消えてしまうことから通常訴訟を行っている時間的猶予は無いため仮処分手続きで開示請求を行います。IPアドレスが判明したら次にプロバイダ業者に対し投稿者の発信者情報の開示を求め提訴します。これは通常の訴訟となります。判決により発信者情報の開示命令を得てようやく投稿者本人の特定となります。その後当該投稿者を相手取り損害賠償請求訴訟が開始されます。この投稿者を特定する手続きだけで通常3ヶ月から半年を要すると言われております。

発信者情報開示の具体的要件

 プロバイダ責任制限法4条では発信者情報の開示が認められるための具体的要件が示されております。①特定電気通信による情報流通、②権利侵害の明白性、③正当理由が挙げられます。特定電気通信とはインターネット上のウェブサイトを言います。権利侵害の明白性とは、権利侵害だけでなく、投稿者の違法性を阻却する事由が存在しないことまでを意味するとされ、開示請求者側が証明することとなります。正当理由とは損害賠償請求、削除要請、差し止め請求などを行うためである場合は通常認められることとなります。

改正案の概要

 発信者情報開示手続きの改正案としては上記のように1つの非訟手続きで投稿者の情報開示を求めることができる制度を創設することが検討されております。その際プロバイダー等が投稿者の意見を聴取できる仕組みも取り入れ、投稿者側の権利保護にも配慮し、裁判所の判断に異議がある場合には通常訴訟に移行させることもできるようになるとのことです。またプロバイダーの所在地などの関係から管轄が東京地裁に集中することも懸念されており、各地方の裁判所にも管轄権を与えるべきとの意見も挙げられておりますが今回の改正案では盛り込まれない見通しと言われております。

コメント

 インターネット上のSNSや掲示板などに誹謗中傷や名誉毀損的な書き込みがなされた場合、上記のように被害者側は厳格な要件のもと数回の裁判所手続きを経てようやく本人を相手取り提訴することができます。これは投稿者側の表現の自由などの権利保護も考慮されていることが理由です。しかし近年ネット上での中傷被害は増加の一途を辿っており、それにより芸能人が自殺いたるという事例も発生しております。また事実無根の書き込み1つで売上が激減したり顧客との取引が中断し、また金融機関での取り付け騒ぎに発展することもありえます。そこでより簡易・迅速にネット中傷による被害救済を図る制度の創設が検討され、今年中にも成立する見通しとされます。ネット中傷への対抗策としては現状どのようなことができるのか、また将来どのように変更されていくのかを注視して準備しておくことが重要と言えるでしょう。

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