はじめに
大分市の談合事件を巡り、市の元環境部長と業者の元監査役が起訴されたことを受け、同市が3業者を指名停止にしていたことがわかりました。市職員4人には既に罰金の略式命令が出されているとのことです。今回は官製談合について見直していきます。
事案の概要
報道などによりますと、大分市が発注したごみ収集運搬業務を巡り、非公表だった入札予定価格を業者に漏らしたとして大分地検が10日、市の元環境部長と業者の元監査役2人を官製談合防止法違反などの罪で起訴したとされます。市の元環境部長は2022年、大分市が発注したごみ収集運搬業務の指名競争入札で入札予定価格を「ワールド建設」の元監査役が実質的に経営する別の会社の営業所で漏らし、その後文書でも提示していたとのことです。また元環境部長と共謀したとして元審議官や元清掃業務課長が略式起訴され、大分簡裁から罰金80万円の略式命令を受けております。
官製談合防止法による規制
官製談合防止法8条によりますと、「職員が、その所属する国等が入札等により行う売買、賃借、請負その他の契約の締結に関し、その職務に反し、事業者その他に談合を唆すこと、事業者その他の者に予定価格その他の入札等に関する秘密を教唆すること又はその他の方法により、当該入札等の公正を害すべき行為を行ったときは、5年以下の懲役又は250万円以下の罰金に処する」とされております。国や自治体が行う入札に際し、入札参加事業者が事前に相談したり、受注業者や受注金額などを決めるといった行為が入札談合行為です。その談合行為を国や自治体の職員が発注価格等の秘密情報を漏洩させたり、契約の相手を指定するといった行為により促すことを禁止しております。違反した場合は罰則以外にも公取委による改善措置要求がなされることがあります(3条~5条)。
官製談合と民間業者
上記のように官製談合防止法はその行為主体が国や自治体の職員、つまり公務員となっております。そのため相手方である民間業者には関係のない法律のようにも見えます。しかし刑法65条1項では、「犯人の身分によって構成すべき犯罪行為に加功したときは、身分のない者であっても、共犯とする」としております。公務員や業務者、男性や女性といった一定の身分に基づいて成立する犯罪を身分犯と言います。本条では身分がなくても身分者との共犯関係は成立するということを定めており、実際にこの規定によって官製談合防止法違反で民間業者の従業員が共犯とされた事例も存在しております(名古屋地裁平成29年2月21日)。
刑法による規制
官製談合防止法以外にも、刑法に公契約関係競売等妨害罪という罪が規定されております。刑法96条の6第1項によりますと、「偽計又は威力を用いて、公の競売又は入札で契約を締結するためのものの公正を害すべき行為をした者は、3年以下の懲役若しくは250万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する」とされております。偽計とは予定価格の漏洩や、他の入札参加者の価格を偽造したりする行為を言います。威力とは談合に応じるよう脅迫したり、入札を取り消すよう多人数で取り囲み、執拗に求めるといった行為などが該当すると言われております(京都地裁昭和58年8月1日)。このように公の競売の公正を害する行為については刑法でも規制の対象としているということです。
コメント
本件ではゴミ収集業務の入札に際し、市の環境部長が入札予定業者に予定価格を漏洩していた疑いがもたれております。また情報を受け取っていたワールド建設の元監査役も起訴されており両者はともに容疑を認めているとされます。3年間で261件、総額2億7000万円の事業を市から受注していた3つの事業者が指名停止となっております。以上のように官製談合事件では情報を漏洩するなどした公務員だけでなく、受け取っていた事業者も摘発の対象となります。また談合行為は別途独禁法違反となる可能性もあります。同業の事業者間での話し合いや調整だけでなく、発注する自治体等の職員との接触も違法となる可能性があることを念頭に、自社でこのような行為や動きがないかを確認しつつ社内で周知しておくことが重要と言えるでしょう。