はじめに
不法残留しているベトナム人らを配達員として雇っていたとして警視庁は22日、ウーバーイーツの日本法人を入管難民法違反の疑いで書類送検していたことがわかりました。
同社元代表は知らなかったと容疑を否認しているとのことです。今回は不法就労助長罪について見直していきます。
事件の概要
報道などによりますと、ウーバーイーツの日本法人「UberJapan」は昨年2020年6月3日~8月31日にかけて、日本で在留期間が過ぎて不法滞在していたベトナム人の男女2人の在留資格を確認せずに都内でウーバーイーツ配達員として働かせていたとされます。
同社配達員のアカウント取得には在留カードや顔写真が必要とされますが、警視庁は他人の情報を使用してアカウントを代行取得するブローカーが存在するとしております。警視庁は同社日本法人の当事の代表者とコンプライアンス担当だった社員および法人としての同社を書類送検しました。
不法就労助長とは
入管難民法73条の2第1項によりますと、
(1)事業活動に関し、外国人に不法就労活動をさせた者
(2)外国人に不法就労活動をさせるためにこれを自己の支配下に置いた者
(3)業として、外国人に不法就労活動をさせる行為又は前号の行為に関しあっせんした者
のいずれかに該当する場合は3年以下の懲役、300万円以下の罰金またはこれらの併科となります。
不法入国した外国人、在留期間を超えて不法滞在している外国人、就労不可の在留資格で滞在している外国人、を働かせる場合や、在留資格の範囲を超えて働かせる場合が典型例です。
なお不法就労であることにつき善意であったとしても無過失でなければ処罰を免れることができないとされております(同条2項)。
不法就労助長に関する裁判例
不法就労助長に関する著名な裁判例としてスナックで働かせていた外国人に、客と合意があれば店外で売春させ売春代の一部を店に入れさせていたという事例があります(東京高裁平成6年11月14日)。店と直接の雇用関係がなく、売春行為も店外で行われていることから「事業活動に関し」て行われたと言えるか、また「不法就労活動をさせた」と言えるのかが問題となりました。
東京高裁は「させた」と言えるためには対人関係上優位な立場であることを利用して不法就労活動を行うべく働きかけることが必要とし、売上の一部を店が取っているシステムから見れば優位な立場から接客・売春を働きかけていたと言えると認めました。
また店を通じて売春が行われ、代金の一部が店に入っており、売春の機会を作出し客を増やして店の収入も増加していることから「事業活動に関し」て行われたと認めました。
また罪数に関しても、同罪は外国人ごとに成立し、複数の外国人に行わせた場合は包括一罪ではなく併合罪となるとしました。
在留カードと在留資格
日本に長期間滞在することが認められた外国人には在留カードが交付されます。在留カードには顔写真とともに氏名、生年月日、性別、国籍、住居地、在留資格、在留期間の満了日、カードの有効期間が記載されております。
在留資格には様々なものがあり、無制限に就労が認められるものとしては永住者、日本人の配偶者、永住者の配偶者、定住者が挙げられます。
外交、公用、教授、芸術、宗教、報道、法律、医療、研究、教育、地術・人文知識・国際業務、介護、興行、技能、技能実習等は限定的に就労が認められております。
そして文化活動、短期滞在、留学、研修等の在留資格は就労が認められておりません。外国人を雇用する際にはこれらを正確にチェックする必要があります。
コメント
本件でウーバーイーツ側の元代表は報告を受けておらず不法就労と知らなかったと供述しているとされます。
警視庁の調べではウーバーイーツのアカウントはブローカーを通じて取得しており、面接も無く、不法就労でも取得できていたとのことです。不法就労助長罪は上記のとおり不法就労と知らなくても無過失でなければ免責されません。個別に面談を行い、在留カードをチェックするなど行うべき調査を怠っていた場合には違法となります。ウーバーイーツを巡っては昨年1年間で不法就労を行っていた外国人は184人にのぼるとされております。
外国人を雇用する際には事前に在留資格や在留期間などを慎重にチェックしてから雇用し、雇用済みの外国人についても不法就労となっていないかを今一度見直しておくことが重要と言えるでしょう。