はじめに
新型コロナウィルス感染拡大により結婚式が中止となり、式場を運営する企業が費用全額に当たる約200万円のキャンセル料の支払いを求める訴えを起こしたところ、訴えられた新郎新婦が、支払い済みの20万円の返還を求めて東京地裁に反訴しました。
事案の概要
本訴被告の新郎新婦は、2020年6月を予定日とする結婚式について、都内にある式場と合意の上で申込金20万円を支払っていました。そして、式が中止となったことを受け式場側から延期費用を支払った上で延期をするか、それとも解約料を支払った上で解約するかの選択肢を提示されました。これに対し新郎新婦側は、規約に記載された「不可抗力」に新型コロナウィルスによる中止が該当するとして、解約料を支払わずに契約を解消すると主張しました。本訴訟は、新型コロナウィルスによる式の中止が「不可抗力」に該当するか否かで両者の主張が食い違っており、この点が争点になると思われます。
不可抗力条項とは
不可抗力条項とは、地震、津波など契約当事者の想定を超えた事象が発生し、債務の履行ができない、または債務の履行が遅延した場合に、債務者が債務不履行責任や履行遅滞責任を負わない旨などを定める条項のことをいいます。契約書に「不可抗力」と定められるとき、通常「帰責事由がない」という意味で使われることが多いです。本件でいうところの式を開催するという式場側の債務が、新型コロナウィルスの感染拡大により履行不可能となりこれが不可抗力によるものだと認定されれば、式場側は式を開催しないことによる責任を負わなくなります。そして、債権者側の新郎新婦も同様に自らの支払債務を履行しなくてよくなることになります。
不可抗力条項に該当する場合にあたるか
先述のとおり不可抗力条項に該当するのは、地震、津波など契約当事者の想定を超えた事象が発生した場合です。では、新型コロナウィルスにより活動できないことが不可抗力に該当するのでしょうか。これは契約ごとに解釈が異なります。例えば、リモートワークをしている者が新型コロナウィルスの流行により仕事が全くできなくなるとはいえません。一方、人がたくさん集まり工場で製造をして納品を行うといった場合には、納期に納品できないのもやむを得ないといった評価を受けやすいことでしょう。
コメント
コロナ禍において、契約関係を見直しリスクヘッジをしなければ思わぬ損失を招来します。予め「新型コロナウィルスの影響による式の中止もこれに含まれる」等と、明確に規約に規定していれば問題はスムーズに解決していたかもしれません。企業法務従事者としては、自社の事業に照らしてコロナ禍の影響により債務が履行できない場合等に備え、契約書の見直しや改善をするべきでしょう。