はじめに
特許法(特)、実用新案法(実)、意匠法(意)、商標法(商)、工業所有権に関する手続等の特例に関する法律(工)、特許協力条約に基づく国際出願等に関する法律(国)、弁理士法(弁)を一部改正する法律が第204回通常国会において成立しました。同法において政令に委任された施行期日を定めるために、9月14日に政令が閣議決定され、施行期日については(工)に関しては令和4年4月1日となり、その他に関しては令和3年10月1日となりました。
事案の概要
当該改正法の成立の背景としては、新型コロナウイルスの感染拡大に対応したデジタル化等の手続の整備の必要性があったこと、デジタル化等の進展に伴う企業行動の変化に対応した権利保護の見直しをする必要があったこと、訴訟手続や料金体系の見直し等の知的財産制度の基盤の強化を柱に特許法等の改正を行うべきと考えられたことが挙げられます。
改正法の概要
まず、新型コロナウイルスの感染拡大に対応したデジタル化等の手続きの整備について具体的に改正内容を紹介します。審判の口頭審理等について、審判長の判断で、当事者等が審判廷に出頭することなくウェブ会議システムを利用して手続を行うことが可能となります(特・実・意・商)。また、特許料等の支払方法について、口座振込等による予納(印紙予納の廃止)や、窓口でのクレジットカード支払等が可能となります(工)。意匠の国際出願の登録査定の通知等について、(感染症拡大時に停止のおそれのある)郵送に代えて、国際機関を経由した電子送付を可能とするなど、手続が簡素化されます(意)。感染症拡大や災害等の理由によって特許料の納付期間を経過した場合に、相応の期間内において割増特許料の納付を免除する規定が設けられます(特・実・意・商)。次に、企業行動のデジタル化に対応した権利保護の見直しとしては、デジタル技術の進展に伴う特許権のライセンス形態の複雑化に対応し、特許権の訂正等における通常実施権者(ライセンスを受けた者)の承諾が不要となります(特・実・意)。最後に、知的財産制度の基盤の強化としては、特許権侵害訴訟において、裁判所が広く第三者から意見を募集できる制度を導入し、弁理士が当該制度における相談に応じることが可能となります(特・実・弁)。また、審査負担増大や手続のデジタル化に対応し収支バランスの確保を図るべく、特許料等の料金体系が見直されます(特・実・意・商・国)。弁理士制度に関して、農林水産関連の知的財産権(植物の新品種・地理的表示)に関する相談等の業務について、弁理士を名乗って行うことができる業務として追加するとともに、法人名称の変更や一人法人制度の導入といった措置が講じられます(弁)。
コメント
特許権等は大企業のみならず中小企業にとっても重要なものであることはいうまでもありません。企業法務従事者としては、かかる法改正の内容を熟知し、より業務を効率化できるようにするべきでしょう。