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IR情報の記載が名誉棄損?/ナガホリの損害賠償請求訴訟について

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はじめに

宝飾事業大手の株式会社ナガホリ(東証スタンダード上場)が、「総会招集通知等の記載が名誉棄損を構成する」として、2022年6月2日、有名金融ブローカー(以下、「A氏」)より東京地方裁判所に損害賠償請求訴訟を提起されました。本件には、リ・ジェネレーション株式会社をはじめとする複数投資家によるナガホリの株式の大規模買付行為が密接に関連しており、ナガホリとリ・ジェネレーション間で、今なお、文書による応酬が続いています。本記事では、今回の訴訟の概要や背景について解説します。
 

訴訟までの経緯

(1)ナガホリの株価の急騰 株式会社ナガホリは、1962年創業の老舗宝飾業者で、百貨店に出店することで事業を拡大してきた上場企業です。そんなナガホリの株価が、2022年3月半ばに急騰しました。高騰の原因として、不動産業界では有名な個人投資家(以下、「B氏」)や、リ・ジェネレーションらによるナガホリ株式の大量買い集めが挙げられます。ちなみに、2022年 4月15日付け大量保有報告書において、株式保有目的について、前者は「純投資」、後者は「重要提案行為等を行うため」と記載しております。 (2)ウルフパック戦術への警戒 株主同士が協調関係にあることを隠しつつ裏で協調し、時機を見て一斉に対象会社の株式に攻勢をかけ、自身の要求(株価向上施策・株主還元)を実現させる投資戦術をウルフパック戦術といいます。今回、B氏とリ・ジェネレーションその他の複数の株主らが、ほぼ同時期にナガホリの株式を急速かつ大量に買い集めている状況を踏まえ、ナガホリとしては、B氏やリ・ジェネレーションらによるウルフパック戦術の疑いがあると見ています。 リ・ジェネレーションの大量保有報告書の提出が遅れ、その間にナガホリの株式を市場で買い増し、筆頭株主である主要株主となるに至ったという経緯も警戒を募らせる要因となったといいます。 なお、2022年4月22日時点で、B氏やリ・ジェネレーションらが保有している株式を単純合算すると合計4,926,400株(所有割合32.14%)もの規模となっています。 (3)本件に関するIR情報の開示 一連の流れを受け、ナガホリは複数回、本件に関するIR情報を開示しています。その中で、今回の訴訟の原告となった金融ブローカーA氏が、一連の株式買い集めに関わりがある旨、名指ししたとされています。 (4)IR情報で言及された金融ブローカーによる訴訟の提起 件の金融ブローカーA氏は、上記の名指しに対し、名誉棄損に当たるとして、金330万円及びこれに対する令和4年5月9日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員の支払いを求め、2022年6月2日に東京地方裁判所に訴訟提起しました。
 

ナガホリ側の主張

訴え提起されたことを受けて、ナガホリは、2022年6月15日に、「当社に対する損害賠償請求訴訟の提起に係る訴状受領に関するお知らせ」と題する文書を発表しています。 その中で、原告が問題視する開示については、 ・所掲の事項に関して、既に複数の報道等がなされていたこと ・「一連の株式買い集めがナガホリの企業価値に及ぼす影響について株主に判断いただくために必要な情報を提供する」という正当な目的によるものであること などを挙げ、原告A氏による請求は根拠のないものと考えている旨の見解を示しています。

(刑法第230条) 1.公然と事実を摘示し、人の名誉を毀き損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する。

 

今後の見通し

ナガホリとしては、名誉棄損であるとのA氏の主張に対し、刑法第230条の2第1項の適用を主張して行くことになると予想されます。 すなわち、①公共の利害に関する事実で、②目的が専ら公益を図ることにあり、③重要部分において真実であることの証明を行う流れとなります。

(刑法第230条の2) 1.前条第1項の行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。 2.前項の規定の適用については、公訴が提起されるに至っていない人の犯罪行為に関する事実は、公共の利害に関する事実とみなす。

 

コメント

元来、IRは、企業が株主や投資家に対し、経営状態・財務状況・業績・経営方針などを開示することで、投資の判断に必要な情報を提供する意味合いがあります。一般的に、IR情報の開示に積極的な企業は、「オープンで信頼が置ける企業」という心証に結びつきやすく、それゆえに、企業としても、投資の判断に役立つ情報を出来る限り提供するというスタンスで、IR情報の開示を行う傾向にあります。 一方で、今回のように、IR情報の開示の仕方によっては、名誉棄損と主張されてしまうリスクを伴います。実際、過去には、株式会社JPホールディングスが臨時株主総会開催の過程で適時開示した事項等が名誉を棄損するとして訴訟提起され、開示内容の訂正と謝罪を行うに至った事例もあります。 開示する一文一文に対し、名誉棄損を構成しないか、名誉棄損を主張されたときに刑法第230条の2の適用を主張できるか、慎重な吟味が必要になりそうです。
 
【関連リンク】 当社株式の大規模買付行為等への対応について(株式会社ナガホリ) 和解による訴訟解決と開示内容の訂正に関するお知らせ(株式会社JPホールディングス)

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