はじめに
戸建て住宅大手「オープンハウスグループ」は10日、暴力団への利益供与問題が発覚した子会社の社長を交代させると発表しました。同グループ子会社は公安委員会から勧告を受けていたとのことです。今回は東京都暴排条例による規制について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、オープンハウスグループがTOBにより子会社化した三栄建築設計(新宿区)の創業者で元社長のK氏が2021年3月に発注した解体工事をめぐり、指定暴力団住吉会系の暴力団員に額面約189万円の小切手を渡していたとされます。これにより解体工事代金の一部が反社会的勢力に流れた疑いがあるとして会社法の特別背任容疑で捜査を受けており、K氏は2022年11月に辞任していたとのことです。東京都公安委員会は東京都暴排条例違反で勧告を出しました。またこれを受け、オープンハウスグループは菊池健太常務執行役員を三栄建築の社長としました。11月の臨時株主総会で正式に決定するとされます。
東京都暴排条例による規制
東京都暴排条例は、暴排活動を推進するための措置、暴排活動に支障をおよぼすおそれのある行為に対する規制等をさだめ、都民の安全で平穏な生活を確保し、事業活動の健全な発展に寄与することを目的としております(1条)。その基本理念は「暴力団を恐れない」「暴力団に金を出さない」「暴力団を利用しない」「暴力団と交際しない」とされております。同条例では大きく、暴力団排除活動の推進に関する基本施策、都民等の役割、禁止措置に分かれており、暴力団を抑止するだけでなく、暴力団からの更生、利益供与、利用、青少年が暴力団と関係を持つことなど、東京都民と事業者に様々な規制を設けております。以下具体的に見ていきます。
暴排条例と努力義務
暴排条例の基本的施策として、(1)都の公共工事の入札に参加させない等の公共事務・事業からの排除、(2)青少年への暴排教育の支援、(3)暴力団からの離脱を促進するための情報提供や指導・助言、(4)そして暴排活動等により暴力団から危害を加えるおそれがある者の警察による保護措置などが挙げられます。またこれらに加え東京都民には努力義務として、青少年に暴力団に加入することや暴力団からの被害を受けないよう指導・助言すること、祭礼等での行事の運営に暴力団を関与させないこと、事業者の契約時に相手方が暴力団でないことの確認、暴力団であることが判明した場合は無催告解除ができる旨の特約を定めること、不動産取引の際には暴力団の事務所として使用させないことなどが挙げられております。事業者だけでなく一般都民も暴排活動に務めることが求められております。
禁止措置
東京都暴排条例では21条以下に様々な禁止行為が規定されております。(1)学校等の敷地周囲200mの区域内に暴力団事務所開設の禁止、(2)正当な理由なく青少年を暴力団事務所に立ち入らせることの禁止、(3)暴排活動を行う者への威迫等の禁止、(4)暴力団員であることを隠蔽する目的で他人の名義を利用することの禁止、(5)暴力団員による用心棒の役務提供を受けることとそれに対する謝礼等の提供の禁止などが挙げられます。そして事業者に対しては暴力団関係者に対する利益供与が禁止されております。具体的には暴力団の威力を利用する目的での利益供与、暴力団の活動を助長する目的での利益供与となります。これらに違反した場合、公安委員会は報告の提出を求めたり立ち入り検査をすることができ(26条1項、2項)、また必要な措置をとるよう勧告することができます(27条)。なお事業者が自ら申告した場合はこれらの措置は免除となります。
コメント
本件で三栄建築の元社長であるK氏は発注した解体工事をめぐり、便宜を図るために暴力団員に約189万円の小切手を渡したとされます。この行為を受け会社法の特別背任容疑で捜査がなされ、また公安委員会から東京都暴排条例違反で勧告がなされました。暴排条例では暴力団の利用だけでなく暴力団に金銭等の利益を提供するだけでも違反となります。暴力団対策の基本法とされる暴対法が施行されてから2022年3月で丸30年となっており、それに続いて各都道府県でも暴排条例が相次いで制定されました。この30年で全国の暴力団組織は大幅に組員を減少させ弱体化したと言われております。しかし近年それに伴い「半グレ」と呼ばれる反社組織の台頭や、反社組織の活動もより巧妙化しております。そのため知らず知らずのうちに反社組織と関係を持ってしまっていることもありえます。今一度法規制の確認と反社チェックを行い、自社の活動を見直しておくことが重要と言えるでしょう。