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英国の希少バラを無許可で販売か、種苗法違反容疑で女性を書類送検

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はじめに

イギリスの会社が開発し、日本で品種登録された希少価値の高いバラの苗木を許可なくインターネットのフリーマーケットサイトで販売した疑いで、9月17日、アルバイト従業員の40代女性が種苗法違反(育成者権侵害)の容疑で書類送検されました。
 

希少なバラを無断でフリマサイトに出品か

報道などによりますと、書類送検されたアルバイト従業員は2023年9月から今年1月にかけて、希少なバラの苗木3本をフリマサイトにて無許可で販売した種苗法違反の疑いが持たれています。 バラは英国のバラ育種販売会社、デビッド・オースチン・ロージズが開発し、「コンスタンス」という商品名で販売されているものです。会社は7年前に農林水産省で品種登録を行なっています。 種苗法では品種登録を行った育成者に“育成者権”が与えられることになっています。対象は農産物、林産物やきのこなどです。 新品種の育成には専門的知識、技術、長期にわたる労力、多額の費用が必要となることがあります。そのため、第三者が簡単に増殖することがないよう、新品種の“育成者”の権利を適切に保護する目的で、「品種登録制度」が設けられています。 一定の要件を満たした植物の新品種を農林水産省に登録することで、育成者には“育成者権”が付与され、知的財産として保護されます。育成者は登録品種の種苗、収穫物、一定の加工品を独占的に利用することが出来ます。 この種苗法により、“育成者権者”以外の人は、育成者権者の許諾を得ずに ・無断増殖 ・無断で譲渡、輸出するなどの行為 ・無断での海外持ち出し などを行うことが禁止されています。 今回、書類送検されたアルバイト従業員は当初、趣味の一環でフリマサイトを通じバラの苗木を購入し、自宅マンションの庭で栽培していました。その後、バラが増えたため、増えた分のバラを出品。高いものでは1本約1万3,000円で販売していたということです。 アルバイト従業員は、販売した品種のバラの無断販売が禁止されていることを知っていたと供述しているそうです。その上で「お金や手間をかけたので“まあいいだろう”と思った」と警察に話しているといいます。 フリマアプリでは、販売者と購入者いずれも名前や住所を明かさずに匿名で配送できる仕組みがあり、アルバイト従業員も匿名配送を利用していたとみられています。 【参考】品種登録制度と育成者権(農林水産省)
 

種苗法“しいたけ”めぐる裁判も

種苗法をめぐっては、過去には、品種登録された「椎茸(しいたけ)」が無断譲渡されたなどとして育成者権侵害を争った裁判がありました。 原告は、ある椎茸に関し、品種登録し製造販売していましたが(以下、「本件椎茸」※)」、被告が本件椎茸を区別することなく、別の椎茸と同じパックに入れて小売店に販売していたと主張。育成者権侵害があったとして、生産や譲渡などの差し止めや損害賠償を求めました。 ※名称「JMS 5K-16」、登録番号7219 これに対し、被告は、 ・本件椎茸の品種登録簿には原木栽培の特性表しか添付されておらず,菌床栽培の特性表は添付されていないこと ・被告の販売した椎茸は菌床栽培されたもので、本件椎茸に係る育成者権は被告の販売した椎茸には及ばないと解されること などを主張。裁判では「育成者権の及ぶ範囲」などが争点となりました。 2018年6月8日、東京地方裁判所は、「品種登録の際に品種登録簿に記載される品種の特性は、品種登録簿上、登録品種を同定識別するためのもので、特性の記載によって権利の範囲を定めるものではない」として、菌床栽培された被告の椎茸にも、本件椎茸の育成者権が及ぶとしました。そのうえで、被告による育成者権の侵害を認め、被告に対し、本件椎茸の生産等の差止めおよび約6678万円の損害賠償の支払いなどを命じる判決を下しました。 平成26年(ワ)第27733号 育成者権侵害差止等請求事件
 

コメント

今回、書類送検されたアルバイト従業員もそうでしたが、育成者権侵害を行う側からすると、「種苗の増殖のために自分でお金と時間を投じたのだから、それを販売しても大きな問題ではないのでは」と考えがちです。 しかし、新しい品種の開発には、膨大な労力と時間・資金を要することが多く、一般的に開発者はこれらのコストを、育成者権に基づく「種苗の販売や増殖に係る許諾料」で回収しています。 そのため、育成者権が適切に保護されない場合、開発者のコスト回収と次の品種開発への投資が停滞し、優良な新品種という日本の農業の強みが失われるおそれがあります。 譲渡や販売のみならず、種イモとして種苗を増殖させたり、挿し木により増殖させたりする際にも育成者権者の許諾を要するため、注意が必要です。 【参考】そのタネ、ほんとに大丈夫?~育成者権侵害について~(農林水産省)
 

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