はじめに
商品やサービスに「顧客満足度No.1」などの根拠のない表示を行い、景表法違反となる事例が相次いだことを受け、消費者庁が実態調査を行い、先日結果を公表しました。広告主が調査会社などから売り込みを受けていたとのことです。今回はNo.1表示などの問題点について見直していきます。
事案の概要
消費者庁の発表などによりますと、近年いわゆる「No.1」表示に関する景表法違反事例が増加しており、令和5年度では13事業者に措置命令が出されたとされます。いずれも調査対象の商品・サービスやこれと比較する競合商品等のウェブサイトを閲覧させ、「顧客満足度が高いと思うものを選んでください」等の質問をして回答させる、「イメージ調査」を根拠としていたとのことです。消費者庁のヒアリング調査によりますと、これらの表示を行っていた理由として、競合他社が同様のNo.1表示を行っていることという回答が最も多く、次に他社製品と比べて自社製品が見劣りするのを避けるためとの回答も見られたとされます。そしてその表示に至った経緯として、調査会社やコンサルティング会社から「1フレーズ10万円」等の勧誘や提案を受けたとのことです。
「No.1」表示と景表法
「顧客満足度No.1」などといった表示をするに際して、合理的な根拠に基づかず、事実と異なる場合には景表法違反となる可能性があります。景表法5条では、事業者は自己の供給する商品または役務について、一般消費者に対し実際のものよりも著しく優良であると表示、または同業他社の製品よりも著しく優良であると表示して一般消費者の自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがある場合は優良誤認表示として禁止しております(1号)。また価格や取引条件について実際のものまたは同業他社の製品よりも著しく有利であると一般消費者に誤認させる場合も有利誤認表示として禁止しております(2号)。いわゆるNo.1表示についてもこれらの不当表示に該当するおそれがあるということです。
合理的な根拠
上記のようにNo.1表示等に合理的な根拠がなければ不当表示となります。それではどのような場合に合理的な根拠が認められるのでしょうか。消費者庁のガイドラインによりますと、合理的な根拠と認められるためには次の4点を満たしている必要があるとされます。(1)比較対象となる商品・サービスが適切に選定されていること、(2)調査対象者が適切に選定されていること、(3)調査が公平な方法で実施されていること、(4)表示内容と調査結果が適切に対応していることとされます。「No.1」を訴求する以上、原則として主要な競合商品・サービスを比較対象とする必要があります。そして調査対象を選定するに際しては、実際に商品・サービスを利用したことがある者を対象とする必要があります。実際には利用したことがなく、単にイメージだけを調査した場合は問題となります。また「医師の○%が推奨」などと表示する場合、調査対象となった医師の専門分野が対象商品とは異なる場合も問題となります。さらに調査方法として、自社製品を選択肢の最上位に固定するなど恣意的な方法で実施された場合も問題となります。
景表法違反防止に向けての取り組み
景表法26条1項によりますと、事業者は、表示により不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害することのないよう、商品または役務の品質、規格その他の内容に係る表示に関する事項を適正に管理するために必要な体制の整備その他の必要な措置を講じなければならないとしております。消費者庁の指針では、(1)景表法の考え方の周知・啓発、(2)法令遵守の方針等の明確化、(3)表示等の根拠となる情報の確認、(4)表示等の根拠となる情報の共有、(5)表示等を管理するための担当者等を定めること、(6)表示等の根拠となる情報を事後的に確認するために必要な措置をとること、(7)不当な表示等が明らかになった場合における迅速かつ適切な対応を講じることが求められております。また一般消費者が表示の根拠となる情報を確認できるようにすることが望ましいとされます。
コメント
近年インターネット広告などで「顧客満足度No.1」「医師の○%が推奨」といった表示が急激に増加しております。消費者庁が実施した消費者1000人に対するアンケートで、これらの表示が購入の意思決定に影響を与えると答えた割合が50%近くに上ったとされます。また「医師の90%が推奨」との表示について、同種の他社商品と比べて優れていると思うと回答した割合も約5割とのことです。このように、これらの表示が消費者の選択に与える影響は大きいと言えますが、多くの場合で合理的な根拠が示されていないと指摘されております。特に顧客満足度等の調査については、実際に使用した消費者ではなく、単に消費者がイメージで満足度が高そうと思うといった抽象的なものが多いとされております。上記のようにこのような合理的根拠のない表示は景表法違反となります。自社製品に安易に「No.1」表示をしていないか、見直しておくことが重要と言えるでしょう。