はじめに
家庭用ゲーム機「ニンテンドー3DS」のソフトのデータを改ざんして販売したとして、石川県警金沢中署は6日、自称自営業の男(32)を不正競争防止法違反の疑いで逮捕したと発表しました。被疑者は容疑を認めているとのことです。今回は不正競争防止法の規制について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、金沢中署の捜査員がサイバーパトロール中に、フリーマーケットサイトでニンテンドー3DS向けソフト「ポケットモンスター サン」が「ポケモンを800匹以上取り揃えております」とうたわれて販売されているのを発見し、捜査を進めていたとされます。同署合同捜査班の捜査で埼玉県の自称自営業の男が5月頃、不正な利益を得る目的で同ソフトの改ざん防止機能を解除してセーブデータを書き換え、石川県の男性に1本5200円で販売した疑いがあるとして不正競争防止法違反の疑いで逮捕されました。データが改ざんされたソフト37点やパソコンなどが押収されており、データ改ざんされたソフトの販売を繰り返していた可能性があるとのことです。
不正競争防止法による規制
不正競争防止法は事業者間の公正な競争を確保し、不正競争を防止することによって国民経済の健全な発展に寄与することを目的としております(1条)。同法2条各号では周知商品混同惹起行為や著名な商品表示の冒用、営業秘密の侵害、原産地等の誤認惹起行為など10の不正競争が定義されており、これらの不正競争行為については差止請求(3条)や損害賠償請求(4条)といった民事措置の他、10年以上の懲役や2000万円以下の罰金といった罰則が規定されております(21条等)。これら不正競争行為の中に「技術的制限手段の効果を妨げる装置等の提供」(2条17号、18号)というものが存在します。これは平成30年改正によって盛り込まれた規定で、従来からあった映像やプログラムに加え、新たに電磁的記録に記録された情報など追加されました。ゲームソフトなどのプロダクトキーやシリアルナンバーといったプロテクトを破るなどの改ざん行為を規制するというものです。以下具体的に見ていきます。
技術的制限手段の効果を妨げる装置等の提供
不正競争防止法2条17号、18号によりますと、(1)営業上用いられている技術的制限手段により制限されている映像もしくは音の視聴等を技術的制限手段の効果を妨げることにより可能とする機能を有する装置等を提供する行為、(2)特定の者以外に映像の視聴等をさせないために営業上用いられている技術的制限手段の効果を妨げることにより視聴を可能とする機能を有する装置等を提供したりする行為が新たな不正競争行為として禁止されております。具体的には、海賊版ゲームソフトを正規のゲーム機で遊べるようにする改造装置やゲームソフトを改造したりセーブデータを改ざんする行為の提供、またB-CASカードを変造して有料放送を無料で視聴できるようにするプログラムや、コンピューターソフトウェアのシリアルコードを不正に提供するといった行為が典型例と言えます。
技術的制限手段とは
ここで「技術的制限手段」とは音楽や映画、写真、ゲームなどのコンテンツを無断コピーや無断視聴できなくするための技術とされます(2条8項)。たとえば、コピーコントロール技術として、コンテンツに信号を付してコピーを制限するSCMSやCGMS、コピーしようとすると真正データを伝送せず、雑音をいれるといった技術が挙げられます。またアクセスコントロール技術として、コンテンツを暗号化して契約者以外の視聴を制限するスクランブル放送などが挙げられます。このような技術的制限手段の効果を妨げる機能を有する装置やプログラム、指令符号等を記録した記録媒体等を譲渡し、または引き渡し、展示し、輸出しまた輸入する行為やインターネットを通じて提供する行為、役務の提供などが禁止の対象となります。なお技術的制限手段の試験や研究の目的でなされる装置等の譲渡等は適用除外となっております。
コメント
本件で逮捕された男は「ポケットモンスター サン」のセーブデータを書き換え、ゲーム内のキャラクターであるポケモン800匹以上揃えられた状態で販売していた疑いが持たれております。これが事実であった場合、営業上用いられている技術的制限手段を妨げる役務の提供を行ったと認められる可能性があると言えます。罰則としては5年以下の懲役または500万円以下の罰金が規定されております。以上のように不正競争防止法の平成30年改正でゲームや映像コンテンツ等の海賊版や不正改造行為が規制の対象として盛り込まれました。近年国内外で様々なIPやコンテンツが違法コピーされ大量に出回っている状況となっており、著作権法等では十分な保護が図れないことから不正競争防止法からも規制の強化がなされました。これにより知財の保護を図る法令は特許法や商標法、著作権法、実用新案法に加えて不正競争防止法も加わり、複雑な法体系を構築しております。自社のIP等をどのように保護できるのかを今一度確認しておくことが重要と言えるでしょう。