はじめに
群馬県伊勢崎市の有料老人ホームの運営会社に一方的に解任されたとして、元役員の男性が同社に対し1440万円の損害賠償を求め東京地裁に提訴していたことがわかりました。会社側は争う姿勢とのことです。今回は取締役など役員の選任と解任手続きについて見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、原告側の男性は同運営会社に2018年7月に選任され、任期満了は2023年12月までだったとされます。しかし2019年12月27日に解任を通告されたとのことです。その際解任の理由などは示されていなかったとされます。男性は残る任期満了までの役員報酬相当額として1440万円および遅延損害金の支払いを求め東京地裁に提訴しました。会社側は正当な理由による解任であり賠償責任はないとしております。
役員等の選任・解任手続き
取締役や監査役、会計参与、会計監査人といった役員等と会社との関係は委任関係であり、その選任は株主総会の決議によります(会社法329条1項)。ここでの決議は普通決議とされますが、通常の普通決議は定足数を定款で定めることにより廃止できますが、役員選任に関しては定足数を3分の1までしか下げることができないとされます(341条)。なお会計監査人についてのみ定足数を廃止することが可能です。そして役員等を解任するにもやはり選任と同様に原則として株主総会の普通決議によることとなります(339条1項)。例外として監査役の解任は特別決議を要します(343条4項、309条2項7号)。なお会計監査人の選解任議案を株主総会に上程するには監査役の同意が必要となります(344条1項、3項)。
累積投票制度と解任
上で述べたように取締役等の解任は原則として株主総会の普通決議となりますが、累積投票制度によって選任された取締役はその解任に特別決議を要します(342条6項、309条2項7号)。累積投票制度とは、複数の取締役を選任する際に、選任予定の取締役と同数の議決権を株主が行使することとなります(342条)。この際株主は1人の候補者に投票することも、分散させて投票することもでき、少数株主の意向を反映させることが可能となります。この制度を利用するには株主総会の5日前までに株主が会社に対し請求することとなります。なお定款によってこの制度を排除することも可能です。
解任の正当理由
取締役等の役員は株主総会決議によりいつでも解任することができます。しかしその解任に「正当な理由」が無い場合は解任した役員に対し会社が損害賠償義務を負うこととなります(339条2項)。この損害賠償とは本来の任期満了までの残りの期間分の報酬相当額ということとなります。それではどのような場合に「正当な理由」があると言えるのでしょうか。この点について会社法の条文には特に規定はなく、裁判所は諸般の事情を総合的に考慮して判断しております。実際に「正当な理由」と認められた例として、持病の悪化による療養(最判昭和57年1月21日)、創業家と対立し独断専行によって業務に支障が発生(大阪地裁平成10年1月28日)、著しい業績不良による事業撤退(横浜地裁平成24年7月20日)、内部情報の外部への漏洩等会社への敵対行為(東京地裁平成18年8月30日)などが挙げられております。
コメント
本件で原告側の元取締役は2019年12月に会社側から解任を通告されたとしております。会社側は正当な理由のある解任であり、また任期についても見解の相違があると反論しております。上で述べたように会社役員等は株主総会決議によっていつでも解任することは可能です。今後解任手続きに不備は無いか、正当な理由があったと言えるかが争点となっていくものと考えられます。以上のように会社役員等は従業員とは異なり会社とは雇用関係ではなく委任関係とされます。そのため解任には株主総会決議を要するなど会社法上様々な規定が置かれております。選任・解任にはどのような手続きが必要か、またどのような場合に正当理由が認められるかなどを予め把握しておくことが重要と言えるでしょう。